創作夢ver.長編

□第一章
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『はぁ……ほんとついてないな〜』


赤々とした夕日を見上げながら、ため息をはき、家路へと足を進める。

憂鬱そうに思い出すのはあの不気味な夢のことと助けてくれた人のこと、そして夢のせいで寝不足なため授業中居眠りをしてしまい先生に怒られ友人たちには笑われ…と今日の不運を思い返していた。


───助けてくれた子は一体誰なんだろう。それに…神子様って……

『はぁ、やっぱり悪い夢だよね。……ん?』


何度目かもわからないため息をはきだしぶつぶつと呟いていると、なんとなく顔をあげた先には今まで見たこともない古びた家が建っていた。

───あれ?帰り道にこんな家なんてあったのかな…うーん、思い出せない……。なんでだろう…不思議と惹きつけられてるかんじがして……足が…勝手に……


ヒメノは一歩一歩とその古びた家へと近づき、いつの間にか玄関の大きな扉が開き室内へと誘われていた。

───ギギィ、と悲鳴にも似た音をたて閉まる扉。

───ギシリギシリ、と今にも抜け落ちそうなほど音をたて軋む木材の床をゆっくりと歩き、ヒメノはただ誘われるままに奥へ奥へと進む。

そして、奥に座る老婆はヒメノを見ると嬉しそうに愉快そうに───ケラケラ、と笑いながら


「イヘヘッこれはこれは珍しいね〜。外からのお客がくるなんてね〜。お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

『……え……ん?あれ?ここは…?なんで私…』

「おやまぁ、こいつらに呼ばれてきたんだね〜!イヘヘッ」

『呼ばれて?こいつら??おばあちゃん以外、誰もいない……うわぁ…凄い…』


老婆の───こいつら、と言う言葉が引っかかり、辺りを見渡すとそこら中にあるのは本ばかりだった。

その膨大な本の量に言葉を無くしていると、老婆はまたもや愉快そうに笑いながら持っていた杖をヒメノに突きつけ


『きゃっ!あ、危ないよ!おばあちゃっ』

「あんたは選ばれたんだよ、こいつら【モノガタリ】にね〜!イヘヘッ!でもこいつらって言ってもあんたのモノガタリは一つしかないから、あんた自身の手で本当のあんただけのモノガタリを見つけないといけないよ〜」

『…ちょっ、おばあちゃん?!』

「ほら!早よせんかい!!一つだけだよ〜間違えば〜イヘヘヘヘッ」


突然のことに驚き狼狽えながらも老婆の急かしにヒメノはわけがわからないまま仕方なく部屋中の本たちを見て回り始めた。


───いったい何が何だかわかんないよ〜!本が物語だの、本に選ばれただの呼ばれただの、最後には私が見つけないといけないだの……でもなんでだろう…どの本にも触れてみたくなるというか…。私ってそんなに読書好きだったっけ?


一つ一つ本たちをみつめながら歩いていると、一つだけひときは美しく輝く本を見つけ───…凄い、なんで光ってるんだろ?……とっても暖かくかんじ…あれ?触ってる!、ヒメノはいつの間にか本を大事そうに手に取り抱きしめていた。


「おぉ!なかなかに最高のモノガタリを見つけたの〜。それはあんたのモノガタリ…簡単に言えば【刻-じかん-】じゃ。あんたの真っ白なこれからの刻にどんなモノガタリが綴られていくのか…楽しみじゃの〜」



───それではな、お嬢ちゃん。よい旅を…。




『…えっ?』


ヒメノは次に目を開けると、そこには最初から古びた家などなかったかのように草だらけの空き地だった。


───夢?…夢だったら少しいやかなりダメだよね…立ち寝してたってことだよね!は、は、恥ずかしいーーー!!!!


ヒメノは耳まで真っ赤にさせ一目散に家へと走り出す。




夢だと思っていた本を大事そうに抱きしめたまま。





もうすっかり夜も更け、ヒメノはパジャマ姿でベッドの上に置いた夢での本を眺めていた。


『なんで夢の中の本が手元にあるの!今日、本買ったり借りたりしてないしな〜…あの夢の中で以外は!』


少しビクビクしながら本を手に取り、ページをめくり始める。

そこには、なにも書かれておらず白紙ばかりだった。


───なんだ〜白紙か〜…少しつまんないな〜。


最後まで見終わると、なんとなく最初のページをまた開き、ぼーっと眺めていると…


───…ん?なんか浮かびあがってきた!


文字が揺れながら浮かびあがり…


───なになに〜……


【白と黒を宿す麒麟、陰陽の神子、見つけ導く。陰陽の神子、荒れ狂う戦乱の地へ、八つの神を守護せし、守護者とともに、鎮めしため、降り立つ。其の神子の名、───。】


『神子の名は………っっ!!?』


焦りとなぜかわからないが恐怖をかんじ本を手放そうとしたその時…本は強い光を放ち、ヒメノを包んでしまい…


バサッ


そこにはヒメノの姿はもうなく、本だけが床に落ち、また文字を浮かびあがらせていた。



【其の神子の名、高坂 ヒメノ。】





第一章ー完ー

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