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□何度でも君と 10
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side kishow 

紫を見送ってから、このままいてもしょうがないし、いくつもりだったBALに向かった。 

そういえば、生ハム食べるっつてたっけな。 
若干のモヤモヤ感を拭えぬまま、BALの扉を勢いよく開く。 

『うっーすッッ』 

『あっ、きーやん久し振り〜』 

『そーだっけ?ごめん…』 

カウンターの一番奥から3つ目のスツール。 
俺のいつもの席。 

店内の客が個人個人好きな時間を過ごす。 
いつもはこの空間が、自分の空間だって思えるのに… 
でも、今日は逆にそれが、なんか考える時間 
をもて余す。 

『きーやん適当に出していい?』 

『ん?あぁお願い』 

しばらくして、木のプレートにのった生ハムとチーズが盛り合わせて運ばれてくる。 

『このイタリア産ワイン今日入ったんだけど、すごい合うと思うよ、きーやんチリのが好きだろうげど…ってきーやん??』 

グラスのカーブを滑る赤い液体。 
艶やかな表面がゆらゆらと揺れる。 

一口飲み干すと香りと渋味が喉を通って、熱くなっていく。 

『ねぇ?なんかあった?』 

『ん…?あったと言えば…』 

なんで俺こんな心配してんだろーね。 
別に関係ないっちゃーないんだけど。 

『ねぇ、マスター。この3つ先の曲がり角曲がると、風俗街あんじゃん?』 

『えっ?あぁ…それが?』 

なに?とばかりに俺の前のカウンターから身をを乗り出す。 

『んー、そのさぁ、店の中に一軒だけ会員制って書いてるクラブみたいなんあるの知ってる??』 

『あぁ、あるね、この辺じゃ有名だよ』 

『何が?』 

『いや、いかにもでしょ?龍雲会ってヤクザが仕切ってる店で、そのうちガサ入れはいるんじゃないかって噂だけどね』 

『だよねぇ、やっぱ』 
グラスをグルグル回すとワインからの筋が更々と縁を走って落ちる。 

『あ、きーやん入っちゃだめだからね!!薬とか売ってるとか噂聞くし、行方不明になったとかも聞くんだから、ホント駄目だよ!!』 

『いかねぇよ!あやし過ぎるだろーよ』 

空になったグラスにもう一度ついでくれるのを 
ぼんやりと眺める。 

『ならいいけど…』 

電話かけてみるか… 
でもなんか男といいところ邪魔になったらまずいし? 
だけど、あんなとこ出入りするような男ろくなヤツじゃねーだろ… 

あっーーーー!! 
なんで俺が悩んでんだよ! 
まぁいい、しもんぬに聞いて電話するっ。 

それでもちょっと躊躇って携帯を閉じたり、開いたりしたけど、思いきって発信ボタンを押した。 

コールが鳴り出して、しもんぬに電話してるなんて思えないくらい、ちょっと緊張。 

『もしもーーしッッ!きーくんお疲れ様』 

変にテンション高い所が少し腹立つ。 

『ん…お疲れ。』 

『どーしたんですか?なんか機嫌悪い?』 

悪くはないけど、テンションは下がってるなぁ。 
しもんぬのノー天気な感じがまた。 

『別にぃ…あのさぁ、紫携帯番号教えてくんない?』 

『えっ?知らなかったんですか。』 

うっせーよ持ってる事も今日聞いたんだよ! 

『もーいいから早く教えて』 

ちょっとイラっとしたのに気づいたのか、付き合いが長い分そんなところは、空気が読めるしもんぬ。 
すんなり教えてくれた。 

『サンキュ…じゃまた電話するし。じゃね…』 

少し歯切れの悪い感じになっても何も言わないしもんぬに少し悪いなって思ったけど、とにかく今はあいつに電話するのが先。 

聞いた番号をプッシュして、発信。 
呼び出し音が何度目かなると、機械的な留守電のオペレーターがセンターに接続すると伝える。 

留守電に繋がる事は考えてなかったから、言葉を入れずに電話を切る。 

俺の電話にでないとは…いい度胸してんな… 
つーか、もしかしたら知らない電話には出ない主義とか?? 

名前残しといたほうが良かったんじゃね? 

思い直してもう一度電話… 
相変わらずの機械音から案内される。 

ピーーー 

『谷山でーす、しもんぬから番号聞いたぁ。なにしてんの?見たら電話して』 

結局なに話したらいいか分かんなくて、訳わかんないことを残してしまった… 

ワインをもう一口含んでも、あんまり美味しくない。 
さっきまで食べたかった生ハムもそんな進まないし… 

電話はかかって来ないしで、やっぱ取り込み中なのかもとか、しもんぬ番号間違ってんのかとか、悶々として、ちょっと俺どうしたんだろ? 

『はぁぁぁーーー』 

『ちょっと、きーやんほんとどうしたの?』 

俺が聞きたい… 

チラチラ見る携帯も、ピクリともしない。 

カランカランッッ 
『いらっしゃい〜』 

営業スマイルのマスターと共にいちお確認。 
来ないわな… 
女性連れ3人。 

ワイワイどのチーズを食べるか歓談中。 
まぁまぁ可愛い… 
ボンヤリとでもチェック入れてる所が俺って欲望に逆らえないのねなんて。 

『でもさぁ…あれ何だったんだろね』 

『超、人いたじゃん??』 

『警察そーとー居たし』 

『強盗とか?』 

『場所的にそれはなくない?』 

?? 

『どうかしたの?』 

マスターがワイングラスを持って女の子に声をかける。 

『さっき来る途中警察と野次馬すごくて!道いっぱいに広がってて全然通れなくて』 

『なんかあったんですか?』 

警察? 

『いやここからちょっと出てないから、分からないけどねぇ?どこらへん?』 

『結構向こうのほう、人が多くてあんまわからんなかったけど、ピンク街のところへん?』 

いやーな感じはしてたんだけど。 
その理由はこれなのか? 

『ごめんマスターお金置いとく』 

携帯を握りしめて慌てて店を出る。 
マスターの慌てる声もなんとなく聞こえるけど、俺の中の嫌なモヤモヤは全然晴れないし、先に行くべきなんだろう。 

女の子達が言ってた通り、道には人が群がって、曲がり角は曲がれない。 

パトカーが3台、護送車が1台赤色灯を派手に回して停車している。 

肝心の店が全く見えない。 
もう、護送車邪魔だし。 

人の波を避けて、建物沿いから回り込む為、掻き分けてダッシュ。 

なんかすげーことなってるし。 
回り込んでも遠いところからしら見えないから、野次馬の先頭にいくと予想どおりあの店の前に立ち入り禁止のテープが巻かれている。 

その中から、次々に若者が護送車に運ばれて、暴れる者も泣き叫ぶ者も、護送車に詰め込まれる。 
やっべーよなぁ。 
あいつ護送車ん中じゃないの? 
もう一回携帯を鳴らしてみる。 
出ねぇーし。 
出れないだろうけど… 


人混みを避けて、裏口の方に出ようと路地を入る。 
薄暗くて、ゴミ置き場が並ぷ怪しげな道。 

出口に人影がちらほら。 
ヤクザとか隠れててら恐えーしな。 
慌てて出口を走るぬける。 

予想外に、カップルがゴミの袋の前で話してる。 

『警察?救急車?ちょっとやばくない?』 

『えっでもほらっ巻き込まれたらさぁ…』 

なに言って…? 

何でかなぁ… 
なんで俺みつけちゃうんだろ。 
背筋がゾクッとする。 

目を覆いたくなるほどの有り様。 
ごみ袋の上にぼろぼろになった人に。 
紫の姿を認めることも出来ない。 

認めたくない程の凄惨な姿。 

頬は腫れて、唇は切れて血が滲む。 
首元から胸元には何本もの傷がついて、まだ所々血が流れたまま。 
足にも手首にも握られた手の跡が出来て、どんな事があったのか分かる。 
俺もほんとは他人なら関わらない方がいいと思う。 

でも…なんか俺はこいつに構うようにできてんのかぁ… 

一回唾を飲み込んで、二人に話しかける。 


『君たちいいよ、俺がこの人病院つれてくから』 

ほんとはどうしたらいいのか、マジで分かんないけど、取り合えずどうかしないと。 

でもそう言われてホッとしたのか、ちょっとカップルも顔を見合わせて微笑んだ。 

お互いどうしたらいいか分かんなかったんだろう。 

『あっでも1つだけ、君のその巻くヤツ貸してくんない?じゃねーわ、売って』 

何となく服がついてるって思える程しか原型を留めていないこの格好では、どうしたって連れ出す事は出来ない。 

俺のしたい事を理解してくれたのか、彼女の方が、すぐにストールを差し出してくれた。 

『安物なんでいいですよ。使ってください』 

なかなか出来た彼女だ。 
二人はそのまま、慌てて場所を異動した。 

さて、どうするか… 
見つけた時は恐怖さえ覚えたけど、今は少し冷静になった。 
だけど、油断したら手がフルフルと震えだす。 

『おい、紫、紫、』 

体中傷だらけだから、容易に触ることも出来ないし。 
ストールを肩からかけて、顔についている血液を袖で拭ってやると顔をしかめる。 

『紫…』 

睫毛がピクリと動く。 
それだけでも痛むのか、薄く目が開くと、また一度息を漏らして、そうっと目を開けた。 

『やッッ』 

俺を見たとたんに俺の体を突き飛ばす。 

『おい、大丈夫だから、俺!』 

薄く息を吐きながら巻いたストールを握りしめている手が痛々しい。 

『取り合えずこっから離れよう、このままここにいる訳にいかないでしょ?』 

体が動かないのか、まだ錯乱してるのか、動こうとしない紫を立ち上がらせるとフラフラと体を胸に預けさせる。 

『たに……ん…?』 

『何?』 

なんて言ってるか聞こえない。 

『もう……このま…ま……かえ……ださい』 

ちょっとなに? 
このまま帰れと? 
どれだけ探したと思ってんの? 
馬鹿じゃねぇの? 
こんなボロボロ女残して帰れる訳ないでしょ! 

『……たぶん……こ…れから…めい……』 

少しイラっとした。 

『もうしゃべんな。うっせーよ』 

どうやってここから運ぼうかなんてチマチマ考えるのも、もうやめた。 
多少目立ってもいいや。 

『っ!』 

いきなり抱き抱えたせいで、痛いのか、それでも歩くよりマシだろうし。 

『ちょっと我慢しといて寝てていいから』 

前も軽いって思ったけど、今もずいぶん軽い。 
目立たないように路地から路地を抜けて、風俗街の裏にあるラブホ街。 

けばけばしい下世話なネオンが今はちょっと刺激的ではあるけど、こいつを連れてタクシー乗ることも出来ないし、ビジネスホテルでもないし。 

中でも比較的おとなしめなネオンのホテルを選んで扉をくぐると一瞬だけ目を開けて俺を見た。 

『いや…大丈夫だから、流石に…』 

ちょっとその目で見られるとやましい事するみたいで否定しておく。 

部屋は意外に空いてて、そんな中でも普通の部屋を選ぶ。 
なんか久々に入ったラブホがこんな状態で来る事になるとはとちょっと残念だけど、しょうがない。 

部屋に入るまで目を閉じたまま痛みに耐えているのか、浅く息をしたまま動かない。 
マジ大丈夫か?… 

取り合えずベッドに横たえて、冷蔵庫を覗いて。 

『水とあと氷…服か…』 

受話器をとってフロントに電話する。 

『すみません、氷あと服とかありません…よね?』 

『え…氷はありますけど…服ですか…?』 

『いやぁ…えっとないです…よね?』 

そりゃないわな。 
どんなプレーしてんだって話。 

『コスプレですか??なら、CAにOLにセーラー服とナースあとボンテージや着物とかありますけど…』 

『あっじゃあOLで…えっとそれ買い取りとかできます?』 

『買い取り…ですか?出来ますけど、割高ですよ?』 

『いや、大丈夫です。買います!あとなんか痛み止め、熱冷ましとか?』 

『ええ、生理痛とかの薬なら』 

『それお願いします』 

『あ、はい。ではあとでお持ちしますね』 

電話をそこて切るとどっとため息が出た。 
マジどんな趣味だよ。 
でも服は助かったかも。 

紫を見ると気を失ってるのか、呼吸は浅いものの、動かない。 

これは早く病院いったがいいのかもな。 

ビールを開けて一息。 
なんか色々ありすぎて混乱してるし、かなり精神的にキツい。 
とりあえず、今日はこのままここにいて、明日病院… 
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