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□何度でも君と 6
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side kishow 

『……く…ん……きーくん…ちょっとっっ!』 

ん…まだ…寝たい。 
でも…寒い……。 
痛い……。 

『ねぇ、君も起きて!もう…きーくんっっ!』 

『お、おはようござい…ます』 

うるさい…しもんぬ? 

『こんなとこで寝るなんてもうっっ!』 

『すみません…』 

なんで…しもんぬ… 

『あ、君じゃないんだよ。ごめん。紀章さん見てくれてたんでしょ?まもちゃんから聞いた』 

『はい…寝てしまって…ゴホッゴホッ』 

ん!? 
寒い。 

『あーあ、風邪引いたんじゃない?これ着なよ』 

『え…やっ大丈夫です。それより谷山さんがっっ。声でなくなったら…』 

『いいからいいから、女の子なんだから、こんな所に座って寒かったでしょ?紀章さんは大丈夫!この人が悪いんだから』 

ん…何? 

『あっ、遅くなりました。多田サウンドの桐生紫と言います。その節は倒れたところを助けて頂いて…お礼も遅くなりまして』 

『えっとアイムエンタープライスの下野紘です。よろしくお願いします…いや、えっと…助けた??』 

何やってんだ? 
目を開けたいけど、まだ無理… 

『あの…スタジオに閉じ込められた所を…コホッ』 

『ん…?あーー思い出した!紀章さんがジャケット忘れた時の…はいはい!元気になった?無事で何よりだったね?』 

『もっと早くお礼を言いたかったんですけど、なかなかお会いする機会が無くて』 

…なんかあったっけ? 

『谷山さんにもお礼言いたかったんですけど…』

『ん?あーいいのいいの、多分紀章さん覚えてないから、この人、人の覚えが残念だからさ。』 
『はい…』 

…… 

『おいっ!』 

『うわっ』 

人が寝てるからって。 

『起きてたんです?』 

『今目が開いた』 

まだぼーってしてるけど。 

『人が寝てる時にずいぶんな言い様だね、君』 

『はいはい、すいませんけど、そんなことはその格好で言われても…ねぇ?』 

ん? 
ふにふにと暖かくて寝心地いいなぁ… 
って。 

『うぁ!』 

あまりにもビックリして、起き上がるとさっと桐生も手を上げる。 

体が…痛い。 

『体痛い……』 

『もー何やってるんですかぁ?』 


しもんぬが手を引っ張って立ち上がらせてくれるけど、立てない。 

『まもちゃんから電話があって、紀章さんが道端で寝てるから、迎えに行ってほしいって。でもさぁ、マモちゃん肝心の場所詳しく行ってくれないし、俺もラジオのスタッフと飲んでたから、出れないしで大変たったんですよ!』 

『電話してくれりゃーよかったじゃん』 

あたたたっ。 
ゆーっくり正座してまず一呼吸。 

『しましたよっっ!ストーカーのようになん十回も!マモちゃんの電話が11時過ぎで、1時前にタクシー拾ってやっと店についたら、店閉まってるしッッ』 

『ん、わかった。もうちょい小さい声で……』 

首痛い 

『反対側探してて、全然いないし、こっち出てきたらこんな道端に寝てるしっっ!もう!疲れた……朝食奢ってくださいよ』 

『お前うるさい。んで今何時?』 

『4時43分!タクシー呼びますよ』 

『ん…お願い』 

はぁ…早く家で寝たい。 
ん?これ何? 
首にタオルがぶら下がってる。 
よく見たら、M.MIYANO… 
マモちゃんのライブタオル? 

『すみません…寒そうだったので少しはマシかと』 

『あ、ごめん……んでこのペチャンコのヤツは?』 

どーみてもボロボロに傷だらけの残骸。 

『や…気にしないでください』 

桐生が周りに散らばったノートやら財布やらを詰める。 
ん…鞄!? 

『まさか踏んでた?』 

『いえ、私がしたことですから…』 

どー見ても変な形になってるし。 

『ちょっそれ、昨日そんな形じゃなかったでしょ?』 

『まぁ…でも大丈夫です、中身が入ればいいので』 

なんで鞄がこんな形になんの? 
俺の下敷き? 
あー俺の下にひいてたのね。 


『紀章さん!感謝しないとねぇ。この子いなかったらオヤジ狩りあってたかもしれないし!自分も寒いのにこんな事までしてくれて…』 

『オヤジじゃねーしっっ』 

桐生の肩にはしもんぬのジャケットがかかってる。 
ふーん。 
しもんぬも男だねぇ。 
優しいことで… 

『へーへーすんませんでした』 

『ほらタクシー来るから立って』 

しもんぬが手を差し出して立たせる。 

『いえ…お先に帰られてください。私は電車で帰りますから…』 

差し出された手をやんわり断る。 

『だって、一緒にタクシー乗って帰る方が早いでしょ?』 

しもんぬが桐生の荷物を持って立ち上がるといいですね?と俺に言う。 

『そーしたら?』 

『…………』 

ちょっと下を向いて考えこむ。 
ん? 
顔お赤いし… 

『すみません……そうしたいんですが………立てません……』 

『プッッ』 

『紀章さんッッ!誰のせいなんですかッッ!』 

そりゃそーだ。 
6時間以上座ったまま膝枕して、コンクリートに座ってたワケだし? 

て、ことは、これしかないっしょ? 
『きゃッッ』 

『いてて……』 

座ったままの桐生を抱き上げる。 
かるっ。 
マジマジみると手足は細い。 
栄養失調の子みてーだな。 

『ちゃんと食ってんの?』 

恥ずかしいのか、真っ赤になってコクコクっと頷く。 

『紀章さん、人さらいみたい…』 

『王子さまでしょこの場合』 

タクシーがまだ車も少ない朝の道を颯爽と走って俺達の前に停まる。 
運転手が扉を開けると一度俺を見て、二度見する、その瞬間しもんぬがぶはって勢いよく吹き出した。 

『てめぇ…』 

『はいはい、乗りましょ』 

『すみません…』 

タクシーの中は暖かくて気持ちいい。 
やべぇ。 
また寝そう…。 

『紀章さんッッ寝たら駄目ですからね。約束どおり朝飯奢ってくださいよ!』 

『あぁ…ん』 

もういいから寝かせて… 

『だーかーら駄目ですって!桐生さん、あっ紫ちゃんって呼んでいい?』 

『あっはい…宮野さんもそう呼んでますから』 

『ん、じゃあ紫ちゃんは何が、食べたい?』 

しもんぬテンション高すぎッッ 

『いや…私はなんでも…』 

『パン?ご飯?』 

俺に聞けよっっ。 
俺がおごるんだから。 

『んーーーこの時間空いてるのってパンかファミレスしか…』 

『却下!和食!焼き魚、納豆、味噌汁、おにぎり』 

食べたいものを羅列してまた、目をつぶる。 

『まぁーたー、わがまま言って!ちなみにおにぎりに納豆ってどー食べるんですか』 

『いいのッッ!』 

『もうファミレスなら、あるんじゃないんです?モーニングセット?』 

『やだぁー納豆あってもおにぎりないじゃん!!』 

『もう!わがままッッ』 

『わかままだもーん!温かいおにぎり食べたいの!』 

『温かいって!無理でしょっっ?』 

『やだっっ!』 

『あの…もしよろしければ…お二人とも今日お仕事がないのでしたら…うちで作りましょうか?本当に何もない小さな部屋ですけど、それくらいなら用意できますよ』 

『いいの?』『駄目だよ!!』(同時) 


『紀章さんっっ!!!』 

だって温かいご飯に味噌汁にありつけるなら、是非お願いしたいじゃん!! 

『ちょっとお魚買うのと、ご飯炊いたりするのに時間かかりますけどいいですか?』 

『うんっっ!』 

『ちょっと!紀章さんっっ!独り暮らしの女の子の家に上がるなんて駄目!』 

『うっせーなぁ。いいっていってんだからいいじゃん!』 

『大丈夫ですよぉ!でもほんとに何もありませんからビックリするかもです』 

もう俺は朝御飯温かい物食べれるってわかって、安心して眠りについた。 
『紀章さんっっ!起きて!着きましたよ!』 

『ん…?飯…』 

『今からだって!俺ら紀章さん人質に買い物してきたんですからっっ!』 

『わかったって!』 

ポケットから財布をだして、タクシー代を払う。 

『あっ、谷山さんから、タクシー代もらってるので、大丈夫ですよ!』 

『いいからっ払ってもらったら?ご飯代かかったんだし』 

『ん、それくらいいいよ、昨夜お世話になりましたから…てかしもんぬ買い物代払わせたの?うぁー恥ずかしぃ…』 

しもんぬをからかいながらお金を払ってタクシーを出る。 

『なっ…からあげ見てたら紫ちゃん払ってて…ん…ごめん…』 

『大丈夫です!ほんと大丈夫ですから』 

本気で謝りあう二人にちょっと笑う。 
まだ脚が痛いのか、タクシーの扉に手をかけ、ゆっくり立ち上がる。 

『あっすみません……』 

『あんま、謝らないで……謝られると俺が反省しないといけないから……』 

『貴方は……よいしょっ、少しは反省してくださいっっ!』 

しもんぬが荷物を持ってフラフラしている桐生の後ろを支える。 

『大丈夫?』 

『あっ荷物……すみません』 

手で荷物を持ち上げてみせて、少し笑う仕草はいつも一緒のしもんぬじゃないみたいだ。 
俺のしらないしもんぬ…… 

桐生が前を進むマンションは見た目モダンなマンション、ちゃんとオートロックで、中に入るヤツで、やっぱ女の子だなぁなんて思った。 

エレベーターで五階にあがって、奥から2番目、若草色の扉の前で鍵をあける。 

『ほんとになにもないんですけど、びっくりしないでくださいね?』 

ガチャッッ 

扉を開けて電気をつけると、三畳ほどのキッチンがあって、その先にはガラスの引き戸がある。 

『『おじゃましまーーす』』 

『ふふっどうぞ』 

ガラガラ…… 

『床冷たいのでベッドに座っててください』 

中に通されると本当になにも無かった。 
机の上にシンセサイザーとパソコン。 
テレビもない。 
あるのは本棚に何枚かの楽譜とCDだけ。 
『ビバルディ……マーラー……わかんねぇ…』 

『クラシックですからねぇ。結構聞いたことある曲も多いんですよ!』 

台所でお米を研ぎながら言う。 
結構手際いいんだな…こんな所は女の子。 
ポイントたかいんじゃない? 

『玉子焼き好きですか?』 

『『すきっ』』 

『かぶんじゃねーよ!』 

『ふふっ甘いのと、だし巻きとどっちがいいですか?』 

『『だし巻きっっ』』 

『おいっ!』 

見事にハモる俺たちを優しく見守る桐生にちょっと母親を思い出す。 

『わかりました…ご飯と出汁とるまで、ちょっとメール確認していいですか?社長にも連絡しておきたいので』 

『ん??どーぞ、どーぞ』 
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