進撃の巨人
□噂の異端
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身を刺すような冷気の中、ふっと目が覚めた。
シミだらけの見慣れた天井をぼんやりと見上げた後、ずり落ちた毛布を首元まで引っ張り上げて、溜め息をついた。
結局、よく眠れなかった。
訓練課程を終え、漸く私は兵団に入団することになった。
同室の訓練生達は興奮気味に夜遅くまで話していたせいか、未だに布団で気持ちよさそうな寝息を立てている。
「……調査兵団か、憲兵団か。どうしようか」
つい先年、訓練課程において、特に優秀な成績を残した上位十名が、憲兵団への入団を許されるシステムができあがった。
今までは高貴な身分、兵団の重役が就く仕事だった憲兵団への憧れは、そう生半可なものじゃなかった。
なにせ、壁の外で身の危険を晒すような真似をしたり、遠くに見える巨人に怯えながら壁を守ったりしなくてもいいのだ。
『あんたは良いよ、一番安全な壁の中に行けてさ』
昨夜、言われた言葉が脳裏を過った。
「……憲兵団、ねえ」
何度も声に出してもしっくりこなかった。
朝の兵舎に指令の声が響き渡る。
起床の時間になったんだろう。
寝台から降りると、薄いカーテンを開けて、まだ寝息を立てているルームメイトに爽やかな朝日を降らしてやる。
「うあ、まぶしっ」
「ちょ、起きるから、直射日光入れんな、馬鹿」
悲鳴じみた抗議の声に、にやりと笑ってしまう。
「本当に、あんたらは平和でいいね。ほら、とっとと起きないと寝坊だぞ」
壁の中は、いつも通りに平和で、騒がしくて、理不尽で、……残酷だ。