オリジナル

□海列車
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窓の外を、青い世界が流れていく。

向かい合わせの席に、一人で座り、窓の外を眺める。


空と海が永遠に続くようで、水平線の区別もつかず、空には雲ひとつない。


「当列車は最新のテクノロジーにより、不可能と思われた数万キロにも渡る海上線路を開発されました、海上列車でございます。乗客の皆さん、快適な海の旅を………」

アナウンスが流れる以外、車内は静か。

アナウンスさえも途絶えると、静寂が満ちた。


ただ、窓の外を眺めていよう。


青い海の真ん中に、ヘリの残骸が現れた。

日の丸を船体に画いたヘリは、胴体からまっぷたつに折れ、尾部は海に突き刺さるように立っている。

開け放たれたコックピットに、パイロットが立ち尽くし、空を見上げていた。


ヘリは窓の外を流れ、後方に消え去った。




次に出てきたのは、海に半分だけ浸かった都市。

窓や壁に草を茂らせた建物は、青を映した灰色に染まる。

その外壁や屋根に這いつくばるようにして、数人の人々が道具を手に発掘をしている。

列車は発掘をしている人々のすぐ横を通る。

列車を振り返る人は、一人もいなかった。



やがて、列車は速度を落とし、止まる。

降りてみれば、平らな地が広がる。

驚いた。

地には無数の足跡が真っ直ぐ空へと続いている。

そこに薄く張られた水が、青い空を写し、揺れていた。


足跡を踏みしめるように歩くと、小さく水音がする。

足元を見下ろして、自分の足跡だけが付いてないのに気づいた。

前に刻まれた足跡を、踏みつけるが、足跡がつくことは愚か、足跡が崩れることすらない。

その場で足踏みをするのも馬鹿らしくなって、歩くことにする。




無数の足跡はいつまでも続いてる物もあれば、途中で途切れている物もある。

足跡は一つ、またひとつと消えて、数えるほどになってしまう。


立ち止まった。


足跡を追いかけることの意義が分からなくなった。


「列車は来ないよ 」

一つの足跡の上に、男が立っている。

足跡は男の足のところで終わっている。


「ここが終わり?」

「終わりであるけど、終わりでもない。かと言って、始まりでもないし、始まりでもある」

「ややこしい」

「理解するのが? 受け容れるのが?」

「理解すれば、受け容れるのは簡単だ」

「それはそうだ」


「始まりでも終でもなければ、もう列車には戻れない?」

「何を言っている? 列車は後ろにいるだろ」

振り返れば列車が無言で後ろに停車していた。

「本当だ 」




「すみません、切符は必要ですか?」

新しい声がした。

小さな女の子がこちらを見上げている。

それまで饒舌だった男は、口をつぐんで何も言わない。

「改札がなければ、切符はいらないよ」

「ありがとう」

答えると、女の子はステップを上がって列車に乗り込んでいった。


「乗らないの」


男を振り返ると、男は首を振った。

「列車は置き去るものを置いていく。俺は乗れない」

「もし、間違えて置きさられたら?」

「そりゃ、そいつが置き去るべきものだったんだよ」


「それじゃ、置き去られる前に戻る」


列車に上がると、入れ違いに女の人が降りた。


息を吐き出すような音を立てて、列車のドアが閉まる。


歩き出した女をおいて、列車は静かに走り出す。

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