オリジナル

□カズとマサ
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ドッペルゲンガーを知っているかな。
そう、自分によく似た容姿に同じ性格の「もう一人の自分」。
ゲンガーに出会ってしまった奴は自分という存在を乗っ取られてしまうらしい。


竹内和正にはゲンガーがいる。


彼がゲンガーの存在に気付いたのは中学の入学式の時だった。
昇降口に張り出されたクラス表示には二人の「竹内和正」がいたのだ。
そうして彼は“マサ”に、ゲンガーは“カズ”になった。


夏、蝉の鳴き声が幾重にも重なってワンワンと耳の奥に響き渡る、夏休みの午後。
この時期になると最初は乗り気ではなかった文化祭の準備に精が出てくるものだ。


それはマサのクラスでも同じだ。
開校時間直後から文化祭の劇で使う大道具や衣装を、休む間もなく作り続けている。
西洋ファンタジーを女子に推され、アクションシーンも取り入れるということで劇と決まったのだが、元々劇といった類が苦手なマサは、憂鬱な面持ちで王冠に付けるらしい黄色い星を画用紙から黙々と切り抜いていた。
切り抜かれた星たちは山のように机の上に積もっている。


『魔王よ、お前の悪事もここまでだ。さあ、姫を返してもらおうか!』


高らかに台詞を読み上げながら段ボールでできた剣を振るうのは西の国の王子、もとい一年三組の人気者、カズだ。
白いマントを翻して魔王と勇敢に剣を交えるカズに、大道具係や小道具係も手を休め、声援を送っている。
王子が魔王の首を切り落とすのと同時に、マサは大きな星を切り落とした。
王子の勝利を祝う村人は居ても、画用紙から星を切り抜いた勇者を称えるクラスメイトは一人もいない。
開けっ放しの窓から吹き込んできた生ぬるい風が机に積もった星を吹き飛ばした。
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