オリジナル
□恋の手引き
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暗い部屋でパソコンの光だけが青白く光って見える。
多分、私の顔も青くなってるのかな。どうでもいいけど、見えないし。
乾燥して痛む目を擦りながら大きく伸びをする。
「ああもう、なんでパソコンの光ってこんなに強いのかな。機能も難しくってぜんっぜんわかんないし…」
無意味な独り言を言いながらふと壁を見ると、時計の針は三時を指していた。
「う、嘘。もうこんな時間!? そんなあ、賢さんが明日の夕方に原稿取りに来るのに! ……いや、もう日付変わったから今日の夕方? ってそんなこと言ってる暇じゃないーー!」
頼まれた原稿は八十枚、今パソコンに打ち込まれているのはその半分ちょっとの量。
おわらん…。おわった…、ジ エンド 。
昨日映画見てたのが原因か!? 一昨日ゼルダやってたのが悪いの!?
いや、三ヶ月前に頼まれたのを全く手をつけてなかった私が悪い…
「……否! 時間が流れるこの世界が悪い! 止まれ! 時間とまれ!」
そんなどう考えても無駄なことをしてから、私は思い切り机に額を打ち付けて泣き目になった。
成城女子高等学校三年、三輪冬子。小説家。
甲陽社所属の若手作家。
いつもいつも原稿を後回しにする問題作家。
本日も溜めに溜めた原稿を徹夜の挙句、無事にやり遂げ晴れ晴れと朝日を迎える!!!
はずもなく…。
腱鞘炎で痛む手を擦り、寝不足の目を擦りながら重い足取りで登校しています。
終わらなかった。ああ、休みたい。休んで原稿作りたい…。
でも休んだら通知表に欠席つくし、日ごろ休みがちの私にとって一回の欠席は死活問題だ。
卒業できるのか……私は。
周りを歩く同じ制服に身を包んだ生徒が異世界の貴族に見えてきた…。
顔色も晴れ晴れとした血色のよい、いかにも健康体達だ。
なんか…次元が違う……うん。自嘲気味にふふふ、と笑うと重い鞄をよいしょと背負い直す。
教科書とノートの間に突っ込んできたノートパソコンはいくら新技術によって軽量かされているとはいえ、重い。
ほんと、重力って扱いづらい……。私のノトパソには働かないで欲しいよ。
そんな事を考えている内に正門についた。
おお、今日も先生方と並んで生徒会の皆さんが挨拶していますな。ご苦労な。
脇をすり抜けようとすると、
「おっはよん!!」
大きな塊にアタックされて弱った我が身体がぽっきりと折れそうになる。
もう一撃、蟻んこから体当たりされたら多分ノックダウンする。むしろしたい。
「お、おはよ」
「ありゃ、またクマ作ちゃって……徹夜明けか。大変だね、作家さんは」
「あははははは」
「おーい、目が死んでるぞー。戻ってこーい」
「うん、戻ったからそんな揺さぶらないで、凛ちゃん。吐きそう」
「おおっと、めんごめんご」
茶目っ気たっぷりに片目を閉じて見せるが年齢の割りに長身の凛がやってもあまり効果はない。
というか、皆無。むしろマイナス。
「トーコ、今失礼なこと考えたでしょ。ねえ」
「ううん、別に。そんな元気なら鞄持ってよ、腕抜けそう。いっそ私ごと運んで」
「むりっしょ。まあ、鞄くらいなら持ってやるからさ。ほれ、頑張れ」
ひょいと私の鞄を取り上げると力強く私の背中を叩いた。
騒々しい大親友は私のヒットポイントを限りなく削り、ご機嫌そうに校舎に行進し始めた。
終礼後、チャイムと共に教室を飛び出すと下駄箱にダッシュして、靴を履き替えるものもどかしく正門を飛び出した。
今から近所の図書館に駆け込んで残りの十ページを仕上げるつもりだ。
八時に原稿受け取りで今は五時……なんとか間に合うはず!!
走るたびにスクールバックが身体にぶつかって走りにくい。
あああ、どこでもドア欲しい。
住宅街の狭い道路を右に曲がると三車線走行の大きな道路に突き当たる。
きちんと整備された赤茶色の歩道を北に走ると見えてくる巨大な白い建物が市立図書館だ。
ほぼ毎回、遅れて原稿を作る私が図書館にこもるのを賢さんは知っているからここに来るはず。