短編

□ただ、そばにいてくれるだけで良い
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※成人パロ


久しぶりに会った仲間達と飲んでいる私。


『もう一件いこぉ〜?』


「これ以上ムリっスよ!」


「そうだにゃ、さすがに俺もきついにゃぁ」


顔を真っ赤にした桃と、青白い顔した菊丸が言うが、私はまだ平気だ。


『らいちょ〜ぶだぁってばぁ!』


「名前舌回ってないよ?これ以上飲んじゃダメだって」


「そうだよ名前、手塚だって日本に帰国してるんだろ?」


副部長だった大石が、今一番聞きたくない名前を言う。


『くにみつなんてだぁいっきらい』


私がそう言うと、大石と不二が困ったように顔を見合わせる。


『あ〜、あの店いこぉ!!』


「ちょ、名前先輩!」


私は桃を引っ張りながら居酒屋に入る。
ポケットの中で揺れているスマホなんて無視。


**********


『ここのおみせ、ふんいきいいね〜』


「そうだね」


不二の相槌を聞き流し、空になったグラスにお酒を注ぐと、それをぐいっと仰ぐ。


「こらこら、名前はもうおしまい」


大石にグラスを取り上げられる。


『え〜、まだ飲みたい〜』


「はいはい、酔っ払いはお水飲んで」


大石に渡されたグラスはお水がたっぷりと入っていた。


『え〜、せめて烏龍茶がいい〜』


烏龍茶貰って、どさくさに紛れてお酒で割りたい。


「ダメ、絶対お酒で割ろうとするから」


え、バレてる。


「自棄酒はやめなさい」


『自棄酒じゃないもん』


視線を水の入ってグラスに移す。
大石に大きなため息をつかれる。
ちらっと大石を見ると、不二に目配せをしていた。
でも頭がふわふわしてよく考えられない。
ふたりが何かやっている間に、バレないようそーっと菊丸や桃の方へ移動する。
あのままあそこにいると大石や不二が飲ませてくれないからね。


『桃〜、何飲んでんの〜?』


「カクテルっス」


『おしゃれなもの飲んでんじゃん!』


ひとくちっと強請り、ちょびっとだけ貰うとアルコールの味がする。
ふへへ、アルコール美味しい。


『ういすきーのみたい』


「名前先輩はもうアルコール度数高いものダメっすよ」


『え〜』


「もう、名前飲み過ぎにゃ」


そう言われて置いてあった烏龍茶をぐいっと仰ぐ。


『うーろんちゃおいしい』


「それ、俺の烏龍茶っスよ」


ジト目でリョーマに見られる。
あれ、ふと考える。


『りょーま、おさけのんでなくない?』


「俺、酒飲めないんで」


『あれ、そうなの?』


そういうとリョーマは大きなため息をつく。
こいつらため息ばっかだな。


「俺、まだ未成年スよ?」


『あれ、そうだっけか』


するとやっぱり変なものを見るような目でこちらを見るリョーマ。


「酔いすぎっスよ」


『えへへ』


「何笑ってんスか」


ジト目のリョーマに近付き、ほっぺをつんつんする。


「ちょ、ちょっと、やめてください」


嫌がるリョーマの声を無視して、リョーマの身体を押し倒し、その上に馬乗りになる。
そしてリョーマの頬を引っ張る。


『ぷにぷに〜』


よく伸びるぷにぷにのほっぺを堪能していると、リョーマが急に焦った声をだす。


「ちょ、先輩!後ろ!」


「名前」


リョーマに指を差された方を向こうとすると、聞き慣れた低音が聞こえた。


「名前、何をしている」


無言でいると、少し怒ったような低音に変わった。
振り返れなかった。下を向いたまま答える。


『なによ』


いつもは電話をしてもでてくれないくせに。
会いたいって言っても忙しいからって言って会いに来てくれないくせに。
テニスばっかで私のことなんて全然見てくれないくせに。


「帰るぞ」


腕を引っ張られ、無理やり立たされる。
顔を見たら涙が零れてしまいそうだ。
私は手塚が私のバックを持って来るのを、ただ立ち尽くして待っていた。


「僕らが出しとくから、先帰っていいよ〜」


名前かなり酔ってるみたいだし。
不二はいつもと変わらない笑みを浮かべて言う。


『ありがとう』


「すまない」


手塚はそう言うと私の腕を強引に引っ張った。
転びそうになりながら付いていくと手塚の愛車に乗せられる。


車が動いてもずっと私は外を見ていた。
やがて車は赤信号で停車する。


「名前」


『... ... ...』


手塚の方を見ると涙が零れるから無言を返す。


「こっちを向け」


『いや』


「こっちを向け」


怒気を含んだ声にびくっと肩を揺らす。


『ぃゃ』


小声で否定の言葉を出すと、肩を掴まれぐいっと強引に手塚の方に寄せられた。
そして顎をくいっと上げられ、無理やり手塚と視線を合わせられる。


『なによ』


もう耐えられない。
目から涙が零れる。


「名前」


『電話してもでてくれなくて、デートもドタキャンするくせに。こういう時だけ彼氏面しないでよ!』


泣きながら手塚に叫ぶ。


「すまない」


眉を下げ謝る手塚。


「これからは、悪いところ全部直すから」


俺以外に触れるな。
そう言う手塚の顔が切なくて。なによ、今更そんな顔しないでよ。
涙がまた零れる。


「泣くな」


手塚は顎を持っている手を頬に当て、指で私の涙を拭う。


『アンタのせいでしょ』


「すまない」


『謝んないでよ』


そう言うと手塚はフッと笑う。
キュンと鳴る胸。
信号が青に変わり、車が動き出す。
手塚はハンドルを握り、しっかり前を見ている。


『私のそばにいて』


小さく呟くと手塚は反応してくれた。


「1週間は日本にいる予定だから、その間はずっと一緒にいてやる」


『ドイツに戻っても、毎日電話して』


「お前が寝る前に、毎日電話してやろう」


『デート、したいかも』


「なら、明日ドライブでもいくか」


真っ直ぐ前を向いている手塚の横顔を見て少しときめく。


『でも、』


『明日はふたりで家にいたいかも』


そういうと手塚は嬉しそうに微笑む。


「なら、明日は家でゆっくり過ごすか」


『うん』


やっぱり君が好き。




ただ、そばにいてくれるだけで良い
高望みしないから、だからそばにいて。



 

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