短編
□手を伸ばせば
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私は接触感応能力(サイコメトリー)のレベル6。内務省特務機関超能力支援研究局、通称B.A.B.E.L.(バベル)と呼ばれる組織に所属している。
チルドレンの三宮紫穂ちゃんに比べると能力で劣るものの、その日のコンディションによりレベル7並の力をだすことができるのが私の自慢。
そんな私がチルドレンと一緒に任務に出ていると。
「名前」
聞き慣れた声が聞こえ、その声に反応した皆本さんが私の後ろ向けて銃を構えるのが見えた。
振り返ると周りの景色が変わっていた。高層ビルの屋上に立っていた。
テレポートで移動したのだろうか。
『あんまり任務中に連れ出すのはやめていただけないですかね、兵部さん』
少し困ったように言うとクスクスと笑い声が聞こえた。
「ごめんごめん、久しぶりに名前を見たら二人きりになりたくて、ついね」
学生服に身を包み、こちらを見ているのは兵部京介。
P.A.N.D.R.A(パンドラ)と呼ばれる組織のリーダーである。
『もう、兵部さんに会ったの管理官にバレたら私大目玉食らうんですけど』
「バレなければ大丈夫」
『皆本さんが管理官に報告するでしょう!!』
「後で記憶を操作しておくよ」
『はぁ〜、一応私達敵ですよ』
「でも君には僕を捕まえようなんて考えてもいないだろう」
『どうせ逃げられますからね〜』
兵部さんと会話を続けながら、
この後戻ったらチルドレンに何があったか根掘り葉掘り聞かれるんだろうな〜、と考えると気が沈んできた。
あの子達はそういう話に関してはすごいやりづらい。
「二人きりの時だけは僕のことだけ考えて欲しいな」
『貴方は子供ですか』
「もう連れないな〜」
兵部さんが前髪をくしゃっと掻き上げる。すると彼の額に銃痕が見えた。
見たくなくて目を逸らす。
「はい」
何を思ったのか兵部さんは私に右手を差し出してきた。
『何ですか』
私が怪訝そうな顔をしても何も言わない。
じっと見られるだけも嫌なので、なんとなく手を重ねる。
きゅいんと超能力が発動する。
読み取れたのは。
《好き》
驚いて手を引っ込める。
兵部さんの顔を見ると楽しそうに微笑んでいる。
「もういっかい」
そう言われもう一度手を重ねると次は。
《ずっと一緒にいたい》
また手を引っ込める。
「ほら」
手を重ねる。
《離れたくない》
引っ込める。
「」
重ねる。
《抱きしめたい》
《キスしたい》
《君しか見えない》
《愛してる》
兵部さんから伝わる想いに顔が熱くなる。
なにか返事をしなければと思うが、思うように口が動かない。
いつの間にか手を下ろした兵部さんを見ると、私を見て微笑んでいるだけ。
『何なんですかあなた』
そう言ってもずっと私を見て微笑んでいる。
この人は何を求めているのだろうか。
私は鈍い方ではないので、すぐわかる。
ずっとこの思いから逃げてきたけれど、もう覚悟を決めなければ。
『兵部さん』
そう呼びかけ、手を差し出す。
差し出した手に兵部さんの手が重なった。
《私も好き》
兵部さんは嬉しそうに笑った。
手を伸ばせば
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「キスしてもいいかな」
『い、1回だけなら』
「いただきます」
世界が銀色に染まった。