嵐山隊

□チョコ。
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嵐山隊に用意されているボーダー本部の個室に、鼓膜が張り裂けそうな程の爆音じみた音が鳴った。

「あらじやまざぁぁん!!」
「賢、うるさい」
「扉は大切に扱ってください」
「うっ、すんません…」

爆音を鳴らした男、佐鳥賢は同じ隊の同期と後輩にぴしゃりと言われ、深々と頭を下げる。
いきなりの騒音に固まっていた隊長の嵐山が意識を取り戻し、涙目の佐鳥に優しく声を掛けた。

「どうしたんだ、賢」
「嵐山さんっ、聞いてくださいよぉぉお」

弱々しく尊敬する隊長にすがりついた佐鳥は、何があったかを話す。

「俺、鶴と付き合ってるじゃないですか。で、3日前はバレンタインでしたよね。なのに、鶴ってば俺になんもくれなかったんですよ!?」

ひどくないですか、ときゃんきゃん騒ぐ佐鳥。
時枝がでもさ、と口を開く。

「15日って期末テストだったし、赤折って任務と勉強優先だから仕方ないんじゃない」
「鶴の優先順位はちゃんと理解してるよ!でもさ、テスト終わってもくれないなんて!
俺、テスト終わったらくれるのかなって思ってたのに!」

うわぁんと机に伏せた佐鳥の背中を嵐山がさすってやる。
心底心配しているようだ。

「もしかしたら、忙しかったのかもしれないだろ?これからくれるかもしれないし」
「なるほど!そうですよね!きっと、これからですよね!」
「ああ、まだ希望はあるぞ!」
「流石嵐山さん!」

嵐山の言葉で元気を取り戻した佐鳥に少し呆れながらもいつもの彼に戻ってよかったと時枝と木虎は思った。
タイミングよく話の主人公、鶴がやってきた

「こんにちわ〜。忍田さんに資料頼まれて持ってきましたー」
「鶴!」
「あら佐鳥君。今日もいい笑顔」
「えへへ。鶴も可愛いよ」

チョコよりも甘ったるいほどの二人に時枝と木虎は呆れていた。

「悪いな赤折、ありがとう」
「いいえー、テスト終わって暇でしたし」

鶴の一言で部屋全体が凍った。(気がした)
佐鳥が頬を引き攣らせながら、うろたえる。

「鶴、暇だったの?」
「うん、暇だったよ」
「テスト終わってから?」
「そうだけど…どしたの、佐鳥君」

佐鳥が固まってしまい、理由の分からない鶴は時枝を見る。
少し気が引けたがこうなってしまったら自分が言うしかないと、口を開く。

「赤折さ、14日が何の日かわかる?」
「テスト前日」
「ほかには?」
「バレンタイン…あ、」

バレンタイン、と言った瞬間、鶴はしまった、と思った。
時枝がそれを察知し、頷く。

「ご、ごめん佐鳥君!ほら、テスト勉強で頭いっぱいで!ごめん、ホントにごめんね!」
「あ、ははは。いいよ、うん。そうだよね。俺なんて、そんなもんだよね」

放心状態で佐鳥自身も周りも、佐鳥が何を言ったのかよくわからない。
嵐山がしっかりしろと佐鳥の肩を揺らす。

「あ、じゃあさ、明日!明日佐鳥君に沢山お菓子作ってあげるから!ね、だから元気だして!」

決して嫌いになったのではないと必死に佐鳥に言い聞かせる。
佐鳥はそれを聞いて、マジで、と目を輝かせた。

「まじまじ!絶対おいしいお菓子作るから」
「やったぁ!え、それって俺だけに?ねぇ、俺以外にもとかないよね?」
「え、っと、それは…」
(佐鳥(先輩)だけにしてください)
「鶴?」
「う、うん、もちろん!佐鳥君だけのために作るよ!」
「っしゃあ!」

佐鳥の申し出に一度喉を詰まらせたが、嵐山隊の心の声が通じたらしい。佐鳥のためにと約束をした。

「あ、じゃあ明日デートしよう!鶴任務ある?」
「ないよ」
「じゃあ明日放課後迎えに行くから!」
「うん、待ってる」

じゃ、私はこれでと部屋を後にした鶴。佐鳥が俺も行くとどこに行くかも知らないまま鶴の後を付いて行った。
 

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