元親×元就

□手繰り寄す声
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元親は霧の中で仁王立ちをしていた。
威風堂々とした姿かと思えばそうでもない。
その表情は疑問の表情を浮かべている。

「俺…船に乗ったよな?」

自問してみるが答えてくれる者は誰一人いない。

確かに自分は船に乗った。
海の上で名も知らぬ海賊が暴れていると聞いたので、倒してやろうと意気揚々と海に出たのだ。
そこまでの記憶はあるのにそれ以後の記憶が全くない。
俺も遂に痴呆か?何て冗談を言いながらとりあえず辺りを見回した。

霧で覆われているので周りに何があるのかも分からない。
音は何も聞こえない。
風も無い。
海や火薬などの匂いもしない。
おもむろに持っていた武器に手をかけて周りを一掃するかのように振る。
手ごたえは無い。
霧が一瞬だけ動いたがまた元に戻った。

「参ったな…」

為す術無し。
元親はその場に座り込んだ。
地面とも甲板とも云えぬ変な感触のモノが元親の下にある。

「ここは何処だ?」

溜め息をついて、ふと疑問を感じた。
頬を撫でると確信に変わった。
これは霧ではない、と。
これだけ濃い霧が立ち込めているにも関わらず皮膚は乾いている。
普通では在り得ない。
じゃあこれは何なんだ?

「…気味悪ぃな」

直感的に危ないと感じて元親は立ち上がり駆け出した。
何処に向かうかなんて考えようもないのだが、元親は考えていなかった。
ただ此処を出なければいけないと言う本能に任せて足を進めた。

「地獄なんてまっぴらごめんだ」

もちろん天国も。
まだ死ぬわけにはいかない。
大切な人がいるのだから。
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