宝物小説
□そら子様から二万ヒット御祝い小説
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「こらぁあ!!慶次!待ちやがれってんだぁああ!!!」
前田家にドタドタと賑やかな足音が響きました。
追い掛けながら声を荒げているのは、前田家の当主の前田利家。
その腕白な風貌からは現当主にはまるで見えません。
「そう言われちまうと、待てないねぇ」
駿足な利家に負けず先を行くのは、甥の前田慶次。
前田家きっての風来坊で何かと伯父に突っ掛かる…と言うよりも熱血漢な利家を
焚き付けては飄々と躱して楽しんで居る大男です。
「あらまあ、本日も賑やかです事。」
いつもの様子に前田の女中達は朗らかに微笑ましく見詰めているだけで、誰も手
を貸そうともしません。
(まあ女性の力で止められる筈の無い程、体躯の良い大柄な二人が全速力で駆けて
いるのですが)
「てめぇ!今日と言う日は絶対逃がさねぇからなぁあ!!」
「へえ、今日は何があるんだぃ?」
「今日は、今日は…伯父貴直々に…ッ、お前にガツンと言ってもらうんだからな
ぁあ!」
『伯父貴』とは、血の繋がりのない利家をまるで息子の様に可愛がる柴田勝家公
の事です。
彼は粗暴そうな見た目と裏腹に生真面目な豪傑な御人なのですが…とても内に熱
い信念を持った方なのです。
利家と勝家、二人の熱血漢に挟まれてお説教なんて…一つの場所に止まって居ら
れない慶次が黙って聞いていられる訳もありません。
「っはは!なら余計捕まる訳いかないねぇ」
そう豪快に笑うと慶次は追われているのにも関わらず、優雅な動作で松風に飛び
乗りました。
「てめ…けぃじ―――――!!!!」
利家が叫ぶのも空しく、松風はその名の通り慶次を乗せたまま風の様に去って行
ってしまいました。