短編

□You also in the future
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それから土方は沖田が寝る部屋に行くと、山崎が必死にタオルを変えている姿があった。

「夜中に起こしちまって…すまなかったな。助かった。」

「あ、副長っ。 いえいえ、とんでもないですよ。そういう時の為の俺ですから。」

山崎はできるだけ小声で喋り、にこっと笑みを浮かべた。




「総悟は…。」

「夜中だからなのか結構熱が上がってきてますね。何か食べないと薬も飲めませんし……」

土方は誰かの前となると本心とは裏腹に、“本当餓鬼だな”
とか“自業自得だ”
とか、そんな言葉しか出てこない。

つくづく不器用な男だと山崎は思った。




「総悟…なんか食えるか…?」

沖田はゆっくりと首を横に振った。

「…ゃだ……。吐いちゃいまさ…ァ。」

そう言って、布団に潜り込んでしまった。


「沖田隊長。沢山じゃなくて良いんですよ。一口だけでも頑張って食べて貰えれば十分です。
冷蔵庫に隊長の大好きな桃缶があるんです。
………無理…ですか?」

山崎は水枕の位置を直しながら少年に優しく問う。


「…ほんの…ちょっとだけなら…。
がんばり…ゃす…。」


よほど体調が優れないのか布団に潜ったままモゴモゴ言っている様子はとても気の毒で可哀想で、土方も山崎も胸が痛む。



「…じゃあ俺は桃切って、薬持ってくるんでその間副長、見ててあげてて下さいね。」

「あぁ。」

「沖田隊長は副長に優しくされるのが本望でしょうから。」


「⁉︎なっ!」


山崎は、あははと苦笑いして部屋を後にした。




ーーーーーーーーーーーー



山崎がいなくなり、2人きりになる部屋。

この空間もかなり静かになり、沖田の苦しそうで浅い呼吸がよく聞こえてくる。



ほんのりピンクになった頬に、
睫毛が長く、こうして見ると少女の様にさえみえる。


そして、




怖くなる。




このまま眠り続けてしまいそうな顔をして小さく息をする沖田。



土方は他人に弱みを見せないが、

本当は、



沖田を失うことが怖くてたまらない。





起こしてしまうかもしれないが、
それでも沖田がここにいる事実を確信したくて………




土方は沖田の髪に指を絡ませながら、目の前の小さな身体を包み込んだ。

強く、強く。

強く、

抱きしめる。

そして





ーーー沖田の瞳が重たそうに開く。








「…俺…知ってやすょ…。
いつも、俺が寝入った後…アンタ、

俺のこと…ぎゅっ…て、してくれてたこと。

徹夜で張り込みして帰って来ても、必ず…
その、あったかい…手で。」




「総悟…。」


「アンタ…凄い顔してますょ。
“気が付けなくてすまねぇ”とか……ほざく…つもりでしょ…。」



沖田は無理やりな笑顔を作って笑いかけてくる。

「本当、小生意気な餓鬼だな。」

土方は軽くうわべだけのため息をついてみたりして、沖田の額のタオルを変えた。




「…小せぇ頃の総悟を思い出す。

お前、姉貴にうつらねぇようにって、具合悪い時はよく近藤さんや俺んとこに転がり込んできたよな…。」



沖田は何も相づちをうたないが、布団の中でしっかりと聞いていた。



「本当、でかくなったなぁ。」




珍しく土方が近藤と同じような台詞を吐いた。

土方の気持ちとは裏腹に、沖田は少しだけ拗ねたような表情をして寝返りを打ち、そっぽを向いた。



「俺ァ……、

…まだ、…餓鬼でいい。
餓鬼のまんまで、いいでさァ。


だって、

大人になれば、こうやって…アンタが、
土方さんが……、

看病してくれることも、なくなっちまう……。」






だから、
そういうとこがまだまだ小僧なんだって言いたい気持ちは土方は心の中だけにしまっておいた。





なんだかんだいって沖田は土方に懐いているということは近藤にも、在りし日のミツバにも言われた。

そう思ったら、
この亜麻色の髪の少年が可愛くてしょうがなくなった。




「俺は、いつだって総悟の側にいるつもりだ。
俺たちは最初で最後の悪友だろーが。」


「…ヘィ。」


そう言って沖田は眠りについた。




「早く治せよ…。…くそ餓鬼。」





なんだか誰も聞く相手もいないのに、1人だけで話しているのは恥ずかしくなり、部屋を出ようとした時、

丁度山崎が戻ってきたので、後のことは彼に任せることにした。
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