短編

□You also in the future
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「沖田隊長ー。入りますよー。」


11月の終わり、沖田が熱を出した。

先日大きな討ち入りがあり、十番隊まであるこの真選組も殆どが出動するくらいの規模だった。

しかし、その時間は丁度バケツをひっくり返した様な雨が降っていた。

その中で全員何時間も斬り合いをしたわけで…

それでも他の隊士たちは次の日も普通に仕事にでているのだが……

どうやら自己管理が下手くそなのか、沖田だけがその日の夜中に高熱を出してしまったのだ。




ーーーーーーーー


秋にしてはなんとも蒸し暑い夜だった。

午前3時
土方はこの暑さですっかり目が冴えてしまったので、水でも飲もうかと、何となく食堂の台所へ向かった。



その時ーーー



ガッシャーーン‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎!


まさに土方の行こうとしている食堂から、思い切り何かが割れる音が聞こえてきた。

土方は嫌な予感がしてその音の方向へと走った。

「どうした⁉︎何かあったのか‼︎」
電気が煌々とついていたので土方は叫んだ。





しかし、嫌な勘は的中するもので、
そこにはとんでもない光景が広がっていたのだ…







落下して粉々になった硝子の破片と水浸しになった床の隣には、
沖田が倒れていた。

土方の身体には一瞬にして、心臓を握り潰される様な痛みと緊張がはしった。


「おいっ‼︎‼︎総悟‼︎ 大丈夫かっ⁈‼︎」

ゆっくりと抱き起こすと、沖田は蹲り苦しそうな声を微かに発しながら土方の顔を見た。

「ひ……土方…さん。」

やっとのことで言葉を発した総悟の目には涙がうっすらと溜まっているのが見えた。

焦った。


「大丈夫か総悟…?」

沖田はゆっくりと首を縦に振った。

「だぃ…じょ、ぶ」

「だっ、大丈夫なわけねぇだろうが‼︎
何があった、怪我は?」


あまりの動揺ぶりについ、大きな声になってしまう。
なんとなく土方は沖田の額に触れてみた。

「総悟…、ぉ、おまっ!…すげェ熱じゃねぇか‼︎‼︎」


沖田は一瞬、その土方の声にビクッと怯えた顔をしたので反省し、今度は優しく小さな背中をさすってやった。





「…気持ち、悪くて…目が覚めて、
フラフラするんで、やべぇ感じがしたので水…飲みに来たんでさァ…。」


「それで倒れたってことか。」


沖田は静かにコクリと頷いた。
そして、力が入らないのか、今よりも更にずるずると土方の胸の中に崩れてしまった。
冷静沈着な土方でも、流石にこの状況はまずいと思い、急いで沖田を抱きかかえ自室に向かった。

その際、申し訳ない気持ちもあったが、こういう事態に頼りになる山崎を起こし沖田を任せ土方は台所の硝子の片付けにまわった。











一人、食堂に散らばる硝子の破片を集めていると思い出す。
あの…沖田の表情…

沖田は昔から身体の弱い姉を労わり続けていた為か、自分の体調には無頓着すぎるところがある。
だから近藤や土方なんかは心配だったのだ。
性格は姉と正反対なくせに、
小柄で熱を出しやすい体質はよく似ている。



それに、もし他の隊士が倒れても彼らは歴とした大人なわけで。
自分たちでなんらかの対処はできる。




…でも沖田はまだ18だ。

せめて沖田だけでもちゃんと見ておくべきだった。

そんな後悔が土方を押しつぶす。






硝子が指に刺さり少しだけ血が出た。
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