短編

□自傷癖沖田くん
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ある夏の夜のこと

なけなしの金で銀時はジャンプをかった序でに自動販売機にでも寄ろうと何時もの道より幾らか薄暗い道路を歩いていた。


…筈だった。

目を凝らさないと見えない様な公園のベンチに人がいたのだ。
よく見慣れた茶髪の少年が。

「沖田くん…?」
銀時はそのまま近づく。相手は警察の生意気少年。何時もならほっといても良いのかもしれないが、今日は何だか嫌な予感がよぎったからだ。

見ると沖田はぐったりと下を向き動かない。最悪な状況を考えた銀時はすぐさま少年の腕をとった。
そして脈をみた。
「ったく…焦った。 生きてんじゃねぇか。」

しかし、安心したのもつかの間。
沖田の腕をとった銀時は、どろっとした何かに触れた。

血だ

「まさか…血ってお前、やべぇんじゃねぇの⁈」

沖田の身体、そして自分の状況、全てに理解出来ていない銀時。
しかし、そんな心情とは裏腹に銀時は沖田を背負い猛スピードで道を走った。


着いたのは他でもなく“万事屋”

今日に限って家に帰らず万事屋の仕事を手伝ってくれていた新八が一目散に玄関先まで走ってきた。

「銀さんっ…ていうか、おっ、沖田さんじゃないですか!
い、一体なにが…」


「新八…、悪ィが神楽連れて姉ちゃん所行っててもらえるか?」


こんな夜遅く、ましてや未成年の少年少女に血なんか見せられない。そう判断した銀時は新八の姉である妙の所に泊まるよう説得させた。

「分かりました。銀さん、もし何かあったら何時でも連絡して下さいね。」

地味といえども人一倍気の利く16の少年はそう一言告げ、ギャーギャーと1人叫んでいる神楽を引っ張り部屋を出て行った。


「さてと…」

沖田をソファーに寝かせ、明るい所で見てみれば、出血しているのは手首だけで命に別状はなさそうなので安心した。

銀時は手早くその自分より幾分か細く白い腕の止血をし、包帯を巻いてやった。

「ったくよぉ…何があった、沖田くん。」

そこまで怪我は酷くないというのに沖田は目を覚ます気配もない。
意識が戻れば話を聞いてやれるのだが…
仕方ないので銀時は連絡を一本する事にした。

ーーーーーーーーーー

「おい。万事屋。総悟は何処だ」
「いきなり入って来たと思ったらそれかよ。あのなー、俺は〜仮にもお宅ん家の沖t…
「おいっ!総悟、大丈夫か?」

沖田の保護者的立ち位置にいるマヨラーこと、土方十四郎は沖田の肩を仕切りに揺らすが起きる気配もはない。

「っち…」

「おい。多串くんよぉ。どうしちゃったんだ?お宅の息子さんは。」

しまいにはポケットから愛用のふざけたライターで煙草に火をつけ始めてしまった土方に銀時は尋ねた。


「その傷。」

「は?」

土方は綺麗に包帯が巻かれている手首に視線をおくった。

「自分でやってんだよ。」

…暫しの沈黙が2人を包む。

「いや、自分で…って、大丈夫なの⁉リスカ⁈」

「馬鹿、そんなんじゃねぇよ。
癖なんだわ。こいつの。
なんかいつもあんなんだからよ、図太そうに見えんだけどな…
万一の理由で女子供斬らなきゃなかった時の夜中とか、時々な。」


万事屋の餓鬼達とは違い幼い時から斬ることが仕事の彼はストレスの発散場所を見つけられなかったのかもしれない……と、銀時は思った。

「今回はアレだ。この間の討ち入りの時、山崎が総悟を庇って肩斬られてんだよ。
…酷い怪我じゃねぇっつってんのによ。

目ぇ覚まさねぇのは、多分寝不足とかそんなもんだろ。

……でも、これでも昔よりかは大分軽くなってる。自傷する度に近藤さんが根気良く話聞いてやってるからな。」

「なるほどね……」

そんな話をしていた時だった。


「ん…、だ…旦那?…土方…さん?」

「おはよ。沖田くん」

「…ぁ、俺ァ…『沖田隊長ぉぉぉーーーーー!』

『こんな時間にどこ行ってたんですか、屯所の皆も心配してますよ(泣』

走ってきたのは例の山崎だった。タイミング悪ぃなあ、おい。

「なんだよ。元気じゃねぇかジミーくん。」

そうして真選組の連中は山崎の車に乗って帰っていった。

「万事屋…。ありがとな。助かった。」

すれ違い間際に土方は現金を裸のまま銀時に押し付けていった。

当たり前の事をしたまでだが、これで今月の家賃がなんとかなるなー、何て事も考えたりしながら銀時は彼らの後ろ姿を見つめた。

そして、彼らなら沖田が癖を克服するのに時間は掛からないだろう。そんな事を思ってみたりもした。

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