短編

□また逢うひまで
1ページ/2ページ

大江戸
かぶき町

ここは江戸の治安を護るためつくられた特殊部隊【真選組】


その中でも、最年少の生意気茶髪少年、沖田総悟。

俺は、総悟との付き合いはかなり長くなるが、出会った時から今の今迄、ずっと命を狙われ続けている。(まぁ、心当たりは色々とおもいつくのだが…)

そんな総悟の姉、沖田ミツバは暫く前に他界してしまった。
総悟の目の前で。彼の手を握りしめながら。

あの日から総悟はどことなく元気がない。というより、覇気がない。確信できる証拠もないが、何となく…何か張り詰めた表情をしているのに俺は違和感をかくせなかったのだ。

生前、俺とミツバは想い合っていた。

ある夏の日、一度武州に帰郷したとき、ミツバに言われた言葉。



“……総ちゃんは、あの子、物心つく前に両親とも亡くなっているし、私もこんな身体だからなかなか一緒にいてあげられなくて…。
ですから、愛情という愛情をしらないで育ってしまったんです……。

そこを私が埋めてあげるべきなのですが、
私もあとどれ位生きられるのか分かりません。

ですから、

十四郎さん…。

どうか、…どうか、

総ちゃんのこと、宜しくお願い致します…。”



この言葉を俺は忘れた事がなかった。

ーーーーーーーー


『ねぇ、土方さんは、俺の事好きですかィ?』

「は、?」

あの日と同じ雲一つない晴れた空。
風鈴の音と共に、色素の薄い細い髪をなびかせて総悟が振り向き様に尋ねてきた。

『ゃ、やだなァ、変な事考えないでくだせェ。
かっ、家族としてですよっっ‼』

「あぁ。好きだよ。」

『姉上よりも…?』

「!?……」



『……土方さんが好きなのは、俺じゃぁありやせんよ。』

「どういう事だ総悟……。」

『…………、姉上でさァ。』

総悟は子どもらしい丸顔を下に向け、俯き、それきり何も話さなくなってしまった。
会話はまだそれだけだったが、なんとなく悪い事が起こりそうな空気感が俺たちをとりまいた。

「…、な…なぁ、総悟…?」

俺が自分より頭ひとつ分位低い総悟の肩に手を置いた。
その時だった。

バシンッ!‼

『土方さんは、姉上をっ、今でも好きで、好きで…
忘れられないんでさァっっ!
……だから、俺と姉上を重ね合わせてるだけなんでさァっ…。』


俺の手は思い切り振り払われた。

「…そ、総悟?…大丈夫か…」

『……ハァ、ハァ……ハァ……………』

かなり息が上がっている。常に余裕のある彼の姿は既にそこにはなかった。
地面には黒い染みがいくつもできはじめた。
そう、

彼は泣いていた。


「総悟ッ⁈」

『ッ!触んなっっ! あんたは、あんたはっ、
…それに気付いてねぇ。っっ、俺を姉上の変わりにして満たしてるだけなんでィ………
…けど、俺は姉上とは違って出来の悪い弟なんでさァ…

だから俺が死ねば良かったのにって、皆おもってまさァっ!

なんで、

なんで姉上が死んで、俺がいきてるんでィっっ‼』


昔からそうだった。
総悟はこうなると止まらない。
いつも悪ふざけをしたり、いたずらしたり、気楽そうに見えるが、辛い事や苦しい事を何でも溜め込んでしまうタイプなのだ。

『あっ、あんたはっ…姉上をっ…ひっく、姉上を…愛してっ…ヒック…るんで さァっっ‼‼
俺の事なんて、これっぽっちもっみっ…見えてないんでィ‼』

さっきまであんなに俺に触れられる事を拒否していた少年は、今では俺の胸をドンッドンと叩いている。




「………、すまなかった。総悟」

『うっせぇっ…!謝んじゃねぇっっ!……ぅうっ…ヒック…』


「総悟、よく聞け。」

総悟は素っ頓狂な泣き顔で上を見上げてくる。



「そうだな…。
お前の言うとおり、俺は、……

おめぇの姉貴を……

……ミツバを愛してる。

ずっと……あの日から、ずっと…今でもまだ…」

『…。』

総悟の顔はさっきよりもいっそう暗く、泣き出しそうな表情を浮かべている。


「だから」
『…?…。』


「だからこそ、
俺は、総悟、お前を守らなきゃならねぇ。」

『な、何を「お前はっ、!」

「お前はミツバの形見だ。あいつが唯一残してくれた大事な大事な形見だ。

あいつが自分の命よりも大切にしてきたお前を、傷つけさせるわけにはいかねぇ…。天国の姉貴哀しませたらシメーだろうよ。
…合わせる顔がねぇもんな。

だから俺も命をかけてお前を守らにゃなんねーんだよ。お前を守る義務が、俺にはある。

簡単に死ぬとかなんとか、ほざく事は俺が許さん。

総悟、てめぇがどんなに嫌がったて逃げようとしてもだ。

苦しい時にはいつだって俺たちがいる。


分かったか?。」

『……ひ…ひじかっ…「分かったか?」


『…………へ、ヘィ…』

「分かりゃいいんだよ。…な?」

俺は腕で顔を隠しヒック、ヒックとしゃくりあげている小さな少年の髪の毛をガシガシと撫でた。

「ん、あと、姉貴と総悟を重ね合わせてるってのはちげーよ。
あくまで俺はお前をお前として見ているつもりだよ。」

『……ヘィ……。
どうもすいやせんでした。土方さん…
……あ、、叩いてごめんなさい…。痛かったでしょう?』


「…痛くなんかねぇよ。…総悟。」

普段は、大人びた発言ばかりかましているが、根は素直なこの少年を俺は知っている。そんな総悟がただ可愛くて、愛おしく思え、俺は微笑した。


総悟……
俺はもう、誰も失いたかねぇんだ。

だから……
命に変えても俺が、
真選組〔俺たち〕がお前を守るから。


そんでもって、あっちに逝ったときは姉貴も一緒に
また皆で馬鹿騒ぎできるようにさ、



だから、

だから……



それまで…ずっと


俺の隣に居てくれ。


…総悟。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ