ポリュムニアの瞬き
□《孤独》
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彼は、音の旋律の中を歩いている。
音階をゆっくりと踏み締めるように、それでいて軽やかな足取りで。
足音は打楽器の音色。
空気を震わせる、厳かな弦楽器の音色。
彼の呼吸と同調して、瞬きを追いかける管楽器の音色。
彼自身が、音楽だった。
彼の世界には何も無かった。
――人も、物も、植物も。
純粋な音の塊以外、彼の世界には何も無かった。
たった1人。
彼は唇に僅かに微笑みを浮かべて、瞳の奥に琥珀色の星を煌めかせて、音だけが支配する世界に浸りきっていた。
―――彼は孤独か?
否。彼は、幸せだった。
『孤独』 【終】