皇毅夢「香黄葵」
□陸家之茶技
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「ちちうえぇ〜、あしいたいぃ……」
父上の隣で蹲(つくば)いの坐(正座)を行う鶯媛は、モジモジしながら皇毅の衣の袖をちょいちょい引っ張った。
「姫君、足は楽に崩して頂いて結構ですよ」
葵家の姫様は、そろそろ飽きて来たらしい。
清雅はクスリと笑った。
微動だにせず蹲踞端坐(正座)を続けていた皇毅は、仕方無く鶯媛を膝上に抱いてあやす。
皇毅に抱っこされると、鶯媛は父上の衣をぎゅうと握る。
その仕草が愛らしく、奥方似の姫は人形の様だった。
むずがって襪子(くつした)を脱ごうとし、皇毅に止められる。
幼児(おさなご)の事だ。
恐らくは足が痺れ、オマケに我慢が出来ずに痺れを切らしたのだろう。
蹲踞端坐の作法は慣れぬ者には、最早拷問に近い苦痛をもたらすのだ。
父上に足を摩(さす)って貰うと、小さな姫君は漸(ようや)く大人しくなった。
茶碗の湯を渣方(建水、汚水入れ)に捨て、碗の水気をよく拭う。
拭いた茶碗に銀の則(茶則、スプーン)で粉茶を入れ、湯を注ぐ。
抹茶と湯を馴染ませる様に茶筅で突いてから、緩やかに混ぜ、茶筅を前後に振って細かな泡を立てる。
「抹茶が少なく湯が多いと泡がすぐ消えてしまい、逆に抹茶が多いと粥の汁の様になってしまいます。点茶芸は泡が命です。手首では無く、腕全体を動かす様に茶筅を操り、茶を点(た)てます」
流れる様な一連の動作は洗練され、動きに無駄が無い。
シャカシャカと小気味よく茶を点(た)てる音が治まり、清雅は皇毅に茶を差し出した。
「――――どうぞ。皇毅様」
茶碗が差し出されると皇毅は無言で頷き、茶の泡立ちと水色を見る。
次いで立ち上る香りをゆっくりと楽しみ、清雅に一言断ってから茶を口に含んだ。
「――良い服加減だ。……流石だな」
「畏れ多いお言葉を頂き、ありがとうございます」