皇毅夢「香黄葵」
□陸家之茶技
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「――団茶の粉末を抹茶と言いますが、抹茶は、香りが飛ばぬ様、客人の来られる直前に碾(うす)で挽(ひ)いて用意するのが良いでしょう」
清雅が紙嚢を広げると、粉末状になった粉茶が出て来た。
「おくすりみたーい! ちちうえのタキモノにもにてるのー!!」
「静かにせぬか。騒ぐな、鶯媛。……老師(せんせい)が、お困りだ」
「いえ、構いません」
清雅は目元を和らげる。
炭が入れられた火鉢に似た、風炉と言う器物には銀の釜が載っており、湯が沸いていた。
清雅は瓢(木製の柄杓)で水方(水指)から水を汲むと茶釜に足して行く。
「点茶には茶葉、水、茶器、火相が重要となりますが、特に火相と合わさった湯相が難しく、細かな泡から魚目の如し気泡が立ち始め、泡が連なり連珠の如し気泡が泉の様に湧く頃合いが最適と言われています。浪立つ様に泡が沸き立ってしまうと、湯は老いて劣り、茶の味わいを損なうのです」
「清雅様、火相と湯相とは何ですか?」
「ああ、失礼しました。火相は火加減、湯相は湯加減の事です」
葵家の跡取り息子の質問に、清雅は明朗快活に答えた。
麻の茶巾で茶具と碗を清め、茶碗に熱湯を注ぎ、湯で碗を温める。
その中に茶筅(ちゃせん)を潜らせ、数回振る。
小さな箒(ほうき)や筅(ささら)に似た茶筅(ちゃせん)は竹で出来ており、細かく割いた穂先は櫛歯の様だ。
「この道具は先程説明した通り、茶筅(ちゃせん)と言います。この様に湯に潜(くぐ)らせ、軟らかくして折れない様に弾力を持たせます」