皇毅夢「香黄葵」

□陸家之茶技
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「清雅。忙しい所済まんな」


「―――いえ。……本日は、黄夫人はおられないのですか?」

「……娘が風邪をひいてな。看病をしている。……そのうち寄越そう。―――――いや、やはり止めよう。オマエが流感(流行りのカゼ)などに罹(かか)っては、皆が困るからな……」


娘がカゼ?此処(ここ)にいる女児(むすめ)の事か?と考えて清雅は納得した。

「そういえば、三人目がお生まれになったのでしたね。おめでとうございます」

「ああ」



三進院造りの南大庁、穿堂(通り抜けができる部屋)には挿屏(ついたて)が置かれ、大人の背丈を優に超える石板の挿屏(ついたて)を回り込むと三間の房間が在る。
穿堂(ホール)を抜けて正房に入ると、そこには、茶席として今は滅多にお目にかかれないような古典的な低床の榻台坐が据えられてあった。


皇毅に促された清雅は、長履(ブーツ)を脱ぐと、床面より二段階ほど高くなった床榻台に上がり、備えられた火鉢の前で蹲(つくば)い、用意されていた円形の坐蒲(ガマの穂で編まれた座布団)の上に端坐(正座)で座る。


変わった形の火鉢の上には銀釜が載っていた。




茶芸は陸家と昔から言われている。


本日は、朝賀参内の為に紫州に帰京した陸家当主、陸清雅を葵家に招いて古式点茶藝、

『茗宴(茶会)』

を行うのだ。
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