皇毅夢「香黄葵」
□陸家之茶技
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「清雅様!」
待ちきれなかったという顔をして、男児が清雅の元へ駆けて来る。
垂花門の屏門(中央に有る扉)の前には清雅が良く知る男と幼子(おさなご)が居り、此方(こちら)を見ていた。
葵家の嫡男、葵紹暉は雪の積もる小路を駆けて、子犬の様にコロコロと陸清雅に駆け寄った。
清雅の良く知る男、葵皇毅の衣の後ろには裘装(毛皮の上着)の小さな女の子が居る。
女児は父親の後ろに隠れて近付いて来る清雅を不思議そうに見つめた。
「鶯媛。客人に挨拶だ」
父に促されて、女児―――鶯媛は、はにかみながら清雅に挨拶する。
「……はじ、…はじめてまして。……葵鶯媛です」
チョコチョコ出て来た鶯媛姫の手には、クッタリした熊猫の布玩具(縫いぐるみ)が握られている。
哀れなパンダは脚部を握られているので、顔面を下向きに、雪道を引きずられていた。
姫の髪は複雑に結われ、その上には金緑石の薄片を花びらに、真珠を花蕊にし、萼(がく)や葉には翡翠の薄片が使われた立派な花簪(はなかんざし)が挿さっている。
小さな身体は、ふわふわな兎毛皮の裲襠(袖の無い上衣)の中に埋まっており、着膨れて衣装に着られているカンジだ。