閑話集

□鬼様どうか
1ページ/1ページ



それはある昼、森の野草や茸を売りに里に下りたときに叫び声が上がった。

「鬼じゃぁあああああああああ!!!」








いつも、腰痛に効く野草を、干した肉と交換してくれる
人の良いおばあちゃんの死にそうな声だったもんだから勢いよく通りを覗くと。


「おっ……鬼!?」
よく茸を買うおじさんが叫んで。

「妖怪じゃ、巨人じゃーーーーッ!!」
その隣の家の人も叫んで。

「矢を放て―――――ッ!」
と村長さん。

だけど私の頭は軽くどころではない大パニック。

だってさぁ…
歩いてた身長180センチオーバーの鬼はどこからどう見ても100%…、
【地獄の閻魔大王第1補佐官で鬼神の、鬼灯様】だ。

まさかただ日本の過去に転生しただけではなくて、鬼灯の冷徹の世界に転生していたなんて。

「菊は家に入ってなさい!」

冒頭のおばあちゃんに家に押し込まれた後暫く外で騒ぎが聞こえ、やがて落ち着いた頃に人目を見計らった私は……………。
















『おたずねしてもよいですか、おにさま。」

鬼が捕えられたという小屋を訪れた。

「…貴方は?」

帰ってきた声が前世で大好物だった安元さんだったのでますます確信。

『あなたの名まえは ほおずきさまですよね…?」

「……………」

たっぷり数分間、鬼灯様は沈黙した後とても驚いた顔で、
「なぜ私の名を?」
うわぁ、すごく疑われてる。

だけど焦るな私。
昼から今までずっと考えて革新的な返事がある…。

『うら山で小鬼さんに会いました。
 そのときに ほおずきのそめぬきをした きものをきた鬼さまがいると ききました。」

「成程、確かに私は鬼灯です。
 ふむ…そうですね…私は少し仕事に来ていまして。
 宜しければ今のこの村の話をして頂いてもよろしいでしょうか。」

『よろこんで、です!」



そして私は鬼灯様に様々なことを話した。
だってこれが現世視察だと知っているから。
村のこと、疫病の話、都で妖が跋扈するという噂に、私自身のこと。



やがて陽が昇るころ、鬼灯様から聞かれる。

「幼くして頭が良いのですね。
 …菊さんでしたか、先ほどの話では両親がいないと?」

『はい、村の入り口にすてられていたそうです。」

「いい人に恵まれましたね。」

その言葉に私は胸の辺りがちくりと痛むのを感じた。
鬼灯様はそんな人と出会うことなくその生涯を終えたのだから。

『はい…と、…っても…」

ポタポタと涙が次から次へと溢れて止められない。

「菊さん?」

『ひっ…ぐ…」

「…なぜ泣いているんです。」

『ごめんなさい…気にしないでください、ほおずきさま。」









「どうする…あの鬼、縄も大豆も効かんぞ…」

「どうすれば良いものか…。
 やはり女か子供を差し出さねば帰らぬか…?」

村家で会議が繰り広げられる。
誰が行くのだ、とざわついた部屋の中。
私はすっと手を上げた。

「菊…まさか!」

『わたしが行きます、村長さん。」

やめなさいと引き留めてくれる村長さん。

『わたし、みなさんにとてもおんがあります。
 だからわたしが行きます。
 みなさんだってこのままじゃ決まらないでしょう。」

『それに、だいじょうぶです。
 ………あの方は悪鬼ではありませんから。」

ぼそりと演技を捨てた素の自分でつぶやいた。












さて、自分から志願したのにはいくつか理由がある。



一、鬼灯様ともっといろいろ話せる。(できれば素で話したい)

二、どうせ最終的には孤児の私が選ばれるわけだし、別に取って食われるわけではないので鬼灯様が地獄に帰った後のことを考えて。

まぁ特に重要なのは一だが。















そんな訳で本日たった今。
『暫くお世話します、鬼灯様。」

「こちらこそ、というか私一言も子供を寄越せとか言ってないんですが。」

『それは多分村人の皆さんには伝わりませんよ…。
 だって鬼灯様鬼ですし。」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ