Murderer In World War
□序章
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彼はコツコツと靴音を立てながら真夜中の倉庫街を歩く。
点検不備の点滅する夜行灯にその頬が照らされ、顔があらわになった。
濃い殺意をはらんだ黒い瞳は深く濁り、どこまでも光を通さない。
光に照らされ煌めく黒髪は、暗闇に墨を零した様。
ゆがめられた唇は、うっすら弧を描く。
そしてその唇からは年齢特有の若い声が発される。
『さぁ、この殺人鬼にかかってこいよ。
全部まとめて捌いてやるから…。」
彼はその口に三日月を湛え、指揮者のように優雅にナイフを振り上げた。
そこでようやく足元に転ぶ少年とその周りに佇む少年らは脳内に一つの言葉を思い浮かべた。
――――〔殺される〕。
その瞬間喉の奥から意味もなく張り裂けんばかりに奇声を上げる。
何を恐れおののく必要があろうか、彼らには生きる意味も理由も必要もありはしないのに。
「残念な生き物だね…ヒトっていうのはさ。」
ビュッとナイフに付着した血を振り払う。
余分の血液を振り飛ばすと真新しいハンカチを取り出し、丁寧にナイフを拭く。
ひらりと地面に落とされた血の付いた白いハンカチは、まるで死者を弔うように顔へ覆いかぶさった。
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俺の名前は咲岸 暁。
巷で話題の連続殺人事件の犯人です。
…少し訂正。
犯人でした。少し前までは。
しかしこんなことってあるもんなんだね?
異世界旅行ってやつ?
最近殺した学生さんもそんな感じのライトノベル片手に死んでたっけ?
僕はボケっとしながら目の前の光景を眺めた。
純白の十字架マークが描かれた旗を掲げる軍勢と、純白の十字架マークに赤いペンキで大きくバツ印を付けたパッと見どう見ても革命軍かそのあたりな軍勢。
バツ印の付いた方が明らかに劣勢で押されている。
うーん…これは政府軍とレジスタンスとかそういう類かな?
目を凝らして考えていると何かが視界に移った。
とてもとても、それは素晴らしいまでに純粋で綺麗なモノ。
子供のころ鏡の前で毎日対面していた顔。
戦火の真ん中で肩を抱えて震える少年はどこからどう見ても…
『――子供の僕…?」
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(何かが脳裏を駆けた。)