常闇ノ夜本丸と死を願う審神者

□第壱夜
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「ここか…随分と陰鬱な雰囲気じゃないか」
まさか巷で噂となっているブラック本丸なのか…

キラキラと光る白銀の頭髪に、第一ボタンまでしっかり止められている。一目で高貴なものだとわかる男性が一人、否一振りが縦に長い木箱を抱えて、鳥居を超えて城門の前で立ち止まる。

「失礼、どなたかおられるか」

声を大きく出し、門の奥にいるものへ声をかける。

すぐに門の内側から返事が来た。

「何者だ?」

低くかつ、少しでも怪しいと見抜いたら斬ると言う声質で問い出してきた。

これまた随分と厳しい警戒じゃないか。門番は「優」の資質を持っているようだね。
「時の政府よりこちらへ配属となった、山姥切長義と申す。お通し願えないだろうか。」

「時の…!待っていろ」

時の政府と聞いた途端に、微かに殺気…裏で何か手を引いているのか?いい機会だ、間者として見抜いて行こうか。

少しいて門が開いた。

「待たせたな。さあ入ってくれ。この先は歌仙が案内してくれる。」

門番をしていたのは、膝丸のようだ。まあまあな練度のようだ。この本丸ができてからと言うもの、主の育成頻度はかなり少ないと聞いていたが…

母屋の玄関へ辿り着くと、歌仙兼定が待っていた。

「いらっしゃい、さあ中へどうぞ。お茶のご用意をしよう」

「ご丁寧にどうも…お邪魔させてもらおう」

本丸の中は埃一つない、それに瘴気も感じられない。すれ違う刀剣男士も皆至って健康体ではあるようだ。
門の外での陰鬱な雰囲気は一体…

客間へ通され、質の高そうな座布団へ座り、持ってきた某映画で出演となった、刀剣たちを木箱から取り出した。

『どうぞ…』

「ああ、頂くよ」

刀剣を取り出して並べているところで、すっと一際香りが華やかなお茶を机へ置いてくれた。おそらく先ほどの歌仙であろう。

「待たせてすまなかった。ここの本丸の近侍取りまとめ役を務めている山姥切国広だ。」

「っ…!偽物くん、か。時に、君の主はまだかね?いつまで客人を待たせるんだい?」

近侍だけ来て、その持ち主である審神者がこないだと?時の政府直属の俺が来たと言うのに、舐められたものだね。

「あ、」

「あ?」

「主なら、茶を持って来てくれたぞ」

「は…?」

周囲を見回してもそれらしき姿は見当たらなかった。茶を持ってきてくれた?持ってきた刀剣たちを並べている隙にか?気づけなかったと言うのか、俺とした事がくそっ!

「あんたからの用事なら、俺が承るぞ。主には俺から伝えておく」

「はあぁぁ…!全くどう言うつもりだ。きて早々主からの顔合わせ、挨拶もなしで…政府直属の俺に恥をかかせたいのか?」

対応をしている偽物くんは、全く微塵たりとも気にすることもなく、淡々と対応をしてくる。

「恥を?何がだ?そんな事気にせずとも、ちゃんと対応はしているだろ。主の代理としてな」

お前ってやつはっ!言葉が足りない
「ならその事をさっさと言え!主は忙しくて自分が代理で対応するとな」

偽物くんはよく分からなさそうに首をかしげるも、なんとか伝わったようだ。

「主は忙しくはないんだが…」

「忙しくないなら何故来ないんだ!?」

思わず机を強く叩いてしまった。その反動で、お茶が少しだけこぼれた。

「主は…時の政府に関係するものを心の底から嫌っている。」

「!!」
時の政府たちを嫌っている、だと?どうやらここの本丸には裏切りの気配があるようだ。

「何故嫌っているんだ、教えてくれないか、偽物くん」

「・・・・・。主…無理して答えなくてもいいぞ」

山姥切国広の空気が少し鋭くなった。右側に置いてある本体に手を添えて、隣の部屋への襖に声をかける山姥切国広。

ここの審神者は引きこもりか何かなのか?
客人は近侍に任せっきりで、自分は隣の部屋に居座る。
益々政府にとって宜しくない空気を感じてきた。

『……。山姥切長義、でしたっけ。あなた自身もここで住み込みで務められるのですか。」

襖の向こうから、自信を持つことができない声質で俺に問い出してきた。
時の政府も落ちた者だな、こんな気弱な人間を審神者にするなど、
それも霊力が弱い。ここの本丸の刀剣男士たちが受肉できていることが奇跡なくらいだ。

「ああ。上の命でこの刀剣たちを届けるのと共に、ここで仕えるよう申使っているよ。それで、承るのかい?」

『ええ。受け取るわ。戦力は多いに越したことはないです。まんば、案内してあげて。いつもの部屋にその刀剣たちを置いておいてくれれば、顕現させておくわ。あと彼の本丸案内を誰かに任せてあげて』

「分かった。こっちだ山姥切。付いてこい」

審神者本人へ問いかけたら、思ったよりも話早く済んだ。偽物くんに案内されるのは不本意ではあるけど、まあ仕方ない。これも政府からの依頼。必ず実力を示して見せる。

立ち上がる前にせっかく頂いたお茶を一口頂いておこう。

「っうま!?」

審神者が淹れたと言っていた茶があまりにも美味すぎて、思わず声が出てしまった。

「その茶は、今年とれた新茶なんだ。主は筋金入りのお茶付きでな、ひもじい時でも新作の茶葉の仕入れは欠かさないんだ。」

とにかくここの本丸での八つ時は困らなさそうだな。
不覚にも二杯目の茶を頂いてしまっった。
二番茶も美味すぎてクセになりそうだ。
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