氷蝶ノ舞姫
□弐ノ刻
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朝食時
『ねぇ、政宗ー、母様急にどうしたんだろうね?私たちを呼び出すなんて、珍しい…』
茶碗片手に兄の顔を見上げるが、兄は…
「Year…そうだな…」
と、そっけない空返事ばかりだ、やはり母様に虐待受けたこともあって、だよね。
『ご馳走様。食後のお茶をお願いね。』
食事を終えて、侍女にお膳を下げてもらい、食後のお茶を頼んだ。
お茶好きの私は、様々な茶葉に乾燥させた果物などを混ぜ合わせて、新しい茶葉を作ることにハマっていて、臣下、主に侍女たちに人気だ。
上の空の兄を尻目に、座椅子に寄りかかり、小話語りの書を読書している。
私が書物を捲る音以外何もない、静かな空気が漂う。
カサカサと風が木葉と花を揺らす。
静寂な時へ、お茶を淹れてきてくれた侍女が「お待たせいたしました。食後のお茶でございます。本日は杏と柚子の混ぜ茶でございます。」と私と兄の前にお膳と甘菓子を置いて、退室していった。
「hm…相変わらず洒落た事してくれんじゃねぇか。縷々。」
『好きな物には惜しみなく、よ。じゃなきゃこんな乱世、耐えられないわ。ふー…良い香り。」
語りもなく、黙々と食後の茶菓子に舌鼓をする兄妹。
「この偉く甘い饅頭に、爽やかな香りと酸味を含ませた茶、よく合うな。人を茶菓子でもてなすの、相変わらず上手いじゃねぇか。」
『当然。刺客だろうとも、もてなし次第ではこちらの手札に変えることもできるでしょう。相手の好みの香り、味、何が好きかで…右にも左にも転がるわ。』
お気に入りの湯呑の淵を指先で撫でながら、お茶の香りを堪能する妹を秋風がふわりと掠める。
その姿を見た政宗は、「beautiful…」と小さく呟いて胸をときめかせた。
「失礼致します。お二方。出立のご準備を…」
ゆっくり茶菓子の嗜めていた二人に、宮野零時が青葉城へ帰還する刻限だと、伝えに現れた。
「sit!これだから忍ってやつは。」
『ふふ。』
「ah、何笑ってんだ、縷々?」
『いや。政宗の零時嫌い、いつも通りだなって。」
「嫌いじゃねぇ。信用ならねえだけだ。なんだって、親父はこんな胡散クセェ奴を、縷々の護衛につけたんだか。」
ケッとそっぽ向いている政宗を見て、クスッとする縷々。
『敵を騙し罠に嵌めるならば、まずは味方から…そうでしょう?零時。』
「なっ!?」
縷々がなんの躊躇いもなくさらりと、呟いた言葉に驚く政宗。
普段戦や、謀に田鶴さらない妹がこのようなことを知っていることに初めて気がついたからだ。
「ご名答でございます。姫君。この乱世を切り抜けるには、何事に対しても、鎌をかけて行かなければ。」
「縷々。お前は、『政宗。私はもう17歳。いつまでも守られる側でいるわけにはいかないの。自分の身は自分で守り、納める村の民を守る。それが、武将の務め。そうでじょう。奥州筆頭様。』
泣き虫で、お転婆なかつての妹の姿はなく。一つの町を納める長としての佇まいと変わってしまった彼女の後ろ姿を見て。
改めて自分の甘さに、苦笑を浮かべる政宗。
「本当に、この町を納める気でいたんだな。妹離れ、できてなかったのは俺の方か。」
青葉城へ向かうための出立の準備をしに、二人は反対の方向へ歩んで行った。