少女は捕食者が苦手

□2014V.D
1ページ/1ページ




キュッ、と、こちらに来てから日付感覚を狂わせないためにカレンダーに丸をつけている日課をしてから、あっ、と声を上げる。


「バレンタイン、デー。」


2月14日。聖バレンタインデー。うっかりしていたなぁ。と思った。

お礼をするにはうってつけの行事だ。…しかし、見返りを求めているようであれだな…。

けれど考えてみればもう当日。厨房を借りるわけにもいかないし、材料もない。…ついでに言うとレシピも無い。

致し方ない、諦めよう。小さくため息をついてカレンダーに丸をつけた油性ペンに蓋をした。

そのため息にニトロくんが反応した。かくりと首を傾げつつ、私の様子を窺う。そんなニトロくんに、笑って頭を撫でる。

うん、仕方ないよ。思い付かなかった私が悪い。…にしても、これ結局日付感覚無くなってきてる、よね…。

あんまり意味無いな…なんて思っていたら扉が開く。今日はスタージュン様。


「おはようございます。」

「ああ、おはよう。」


笑って言うと、スタージュン様も笑う。最近、仮面を外していることが多い。

ふと、いつもは無いものに目がいく。つい、きょとりとしてしまった。

そんな私にスタージュン様は視線の先をたどり…ああ、と呟いてふっと笑った。


「ハッピーバレンタイン。私からだ。」

「…え?」


小さめのチョコレートケーキに呆気に取られた。スタージュン様、ハッピーバレンタインて。

それにしても、ああ、私は用意してないのに、貰うだなんて。でも、う、美味しそう…。


「朝食を摂ってから食べるといい。」

「あ…はい。」


いつもは出ていくスタージュン様が、今日は何故だかケーキを食べるまで待ってた。

ケーキはすごく美味しくて、頬が落ちそう、なんて言うとスタージュン様は照れ臭そうに笑った。


--


考えてみれば美食會って料理人の集まりなんだよなぁと思う。そんな人たちに対して料理のあまり得意でない私…作らなくて正解だったかもしれない。

今日は何故だか部屋にいるように、とスタージュン様に言われ、仕方なく自室にいるけれどなんだろう?何で?

うーん、と頭を捻る私の横でニトロくんも頭を捻る。

うんうんと唸っていると急に扉が開いて、肩がびくぅっと跳ねる。今日はまた、盛大に跳ねてしまった。


「イオリッ。」


にこにこしながら入ってきたのはトミーロッド様。完全復活した彼は片手に何やらパフェのようなものを持っている。ウェイターのようだ。


「お、おはようございます、トミーロッド様。」

「何言ってんの、おやつだよおやつ。」

「え、あ、ありがとうございます…?」


おやつなんて、珍しいなぁと首を傾げてみせるとトミーロッド様が呆れたように笑う。


「もー、わかってないネ?これ、ボクからハッピーバレンタイーン!!」

「え、トミーロッド様もですか、」

「ボスのために作ったのと、ついで。」


つ、ついでですか。

そ。ついで。

そんな会話のあと、机にパフェが置かれた。そしてトミーロッド様も椅子に座る。


「噛み締めるように食べてネ?」


にっこり笑顔の口元に虫の足が見えた。これは不味いとか言えないな。というか普通に美味しそうだよ?どうしたんですトミーロッド様、普通だなんて珍しい。

そう考えながら一口食べたら、色がチョコレートなので驚いた。全体フルーツパフェだこれ、いい意味で騙された!!美味い!!


--


残りはグリンパーチ様だな、くれるのかな、とわくわくしながら待ってたら一向に来ない…お昼を食べても晩御飯を食べてもお風呂に入っても…。

何だか半泣きになる。しかも今日一度も会ってないときた。実は嫌われてるのだろうか。嫌だなぁ。

待っていても仕方ないか、なんて、既に布団に入って寝息を立てるニトロくんのほうに行く。小さく、ため息が出た。


「…グリンパーチ、様」

「邪魔するぜェ〜?」

「!!!?」


名前を読んだとたんに開く扉に肩が跳ねた。聞きたかった声に、おもいっきり振り向く。


「グリンパーチさっ…ま?」

「おぅ、悪ィな遅くなってよォ?」


片手にはトレイ。いや、片手ってか、ドアノブ握ってない方の一番上の腕の手にトレイ。

その上には湯気の揺れるマグカップと、…?ガトーショコラ?


「ま、座れよ?」

「あ、はい。」


促した本人は扉を閉めてトレイごと机に置いた。そして私が座ったのを見て、グリンパーチ様も座る。

マグカップの中は、茶色…これ、は。


「ホットチョコレート、ですか?」

「正解。ヒヒッ、そっちは何だと思う?」

「…ガトーショコラ…とか?」

「ブブーッ!!ヒッヒッヒ、割って見てみろよォ?」

「割って…?」


トレイに乗っているフォークとナイフでそっと真ん中に亀裂を入れると、…!!


「フォンダンショコラですか!?」

「おぅ。」

「わぁっ…!!」


とろりと亀裂からこぼれたチョコレート。立ち上がる湯気。わぁ。わぁ!!

ぱくりと一口。ああ美味しいもうやばい美味い。


「おいひいれすぅっ!!」

「(まァた嬉しそうな…)」


ああ、幸せ、グリンパーチ様が目の前に居るのも相まって、すっごい幸せぇっ!!


「お返ひ考えときまふねっ!!」

「ヒッヒ、口ん中無くしてから喋れ?」


飛んだら勿体ねェだろ、と怒られました。













井上伊織のバレンタイン


(で、誰が一番だった?)

(あァ?聞いてなかったなァ〜。)

(まぁ、嬉しそうだったからいいじゃないか。)

(スター、それお返しがほしいからの言い訳?一番美味かった奴にだけお返しにすればイオリが楽だって言ったのスターだよネ?)

(…。)

(黙んな。)













副料理長たちとバレンタイン。



2014/02/14

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ