少女は捕食者が苦手

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「さて、では話を始めましょうか。」


自分からこれを望んだのに面倒だなぁと思うのは贅沢だろうか。もとより話すのは苦手だから、思うのくらいは勘弁してほしい。

机を囲んでグリンパーチ様とユー様と…今日はボギーさん。私はこくり、とほぼ観念した様子で頷いた。

まず、ばさりと机の上に紙の束が放られる。それにきょとりとして、放ったユー様を見た。


「人間界に存在する高校の名簿。それからこちら、戸籍です。」


またどさっと机の上に紙の束が置かれる。多い、いや当たり前だけど。

その量に目を白黒させているとユー様が口を閉じることなく続ける。


「貴女の名前はありませんでした。高校生と言うからにはスラムの者でも無いのでしょう。それと、制服。あのような制服の学校も探しましたが、ありませんでした。説明をしていただけますか?」

「…はい。」


よし。そこまで徹底的に調べているなら信じてもらえ…るのだろうか。侮れないからなぁ。ユー様。

けれども話をしなければ私がいつまでも罪悪感に苦しみ続ける。あんなに親身に聞いてくださって私に居場所を作ってくれたグリンパーチ様に申し訳無い、と。

皆に信じてもらう必要なんて、本当はない。グリンパーチ様が、信じてくだされば、私はそれでいい。

居場所をくださった大きな恩義に、報いることは。


「…私、異世界から来たんです。」


本当の私の事情を、話すことから始まるはずだ。


--


彼女の話は単純にして難解。短いけれどもきちんと説明が出来ているようないないような…。

ようするに、


「現実逃避を望んだら、こちらに落ちたというわけですか?」

「そう、です。」


にわかには信じがたい。けれども多少の教養もある彼女が戸籍もなく育ったとは思いにくいし、高校生とも言っている。

そしてそのレベルの勉学はある程度できる。しかしこれだけでそれに繋がるほど甘くはない。

年齢詐称も考えられる。他の組織からのスパイとも…。

…しかしそれにしてはずぼらだ。実在する制服を使っていない、それにメリットとは?

そして異世界から来たと言う話。現実逃避と言う話。それよりも現実的な話をした方がよっぽど信用されるはず。

あえてこの荒唐無稽な話をしたメリットは?

…いや、裏を読まれている?ここまで考えることを予測済みか?


「ヒッ、ヒッヒッヒ、やっぱり面白ェなァ〜伊織〜。」

「え、そ、そうですか?」


…グリンパーチ様…。

溜め息を一つ。貴方って方はわかってらっしゃるんですか。怪しいには代わりありませんよ。

困ったような視線をグリンパーチ様に向けると相も変わらず愉快そうな笑顔。


「不安なんだろォ?まぁスパイだった時はオレがなんとかするし、お前が気にすることねェぜェ?ユー。」

「…そうですね。そうしてくださるなら助かります。」


まぁ彼女自身も非力ですし、そんな少女に難しく考えるのも疲れますしね。

グリンパーチ様を信じますか。













信じる


(オレァ信じるぜェ?ヒッヒ、面白ェからなァ〜)

(ほんと、ですか、)

(しっかし現実味のねぇ話だな。)

(私には彼女の存在が現実味を帯びてないのですが。)













とりあえずおはなし



2014/02/07

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