少女は捕食者が苦手

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「…!!…伊織…?」


遠くで声が聞こえた。私の名前を呼ぶ声。心地のいい、低い声。それがだんだんと近くなる。


「伊織…伊織!!」


目を覚ます。ぱちりと瞼を開ける。けれども暗いままで、腕を上げて目の辺りに乗せてある手拭いを取って起き上がる。

眩しさに瞬きを数回して、私を呼んでたであろう隣の人を見る。安堵の溜め息をつきながら、薄く笑った。

その表情をみてきょとりとする。仮面がない。なんで、と眉間に皺を寄せつつ首を傾げる。

するとそれを誤解したらしくその人は仮面を取り出して笑った。


「私だ。」

「…スタージュン、様…。」


いえ、それはわかって居たのですけど。まぁそうですね、そう解釈していただいた方が都合はいいですね。

でも気になるので聞かせてくださいね。


「…なんで、仮面取ってるんですか…?」

「む」


前髪をいじって横に流す。少し困ったように笑って、スタージュン様は答えた。


「今日の調理には邪魔だったからな。」


…あ、そういう基準なんですか…。

成る程、なんて小さく呟いて私も苦笑いをすると部屋の扉が開いた。

…あれ、そういえば私、なんで自分の部屋に、今日は第1支部のお手伝いを、


「起きましたか」

「ああ。」


…うん。そうだ、ぶっ倒れたんだ。


--


第1支部長エルグ様。下半身が馬の人。初めの会議には居なかった。

今回が会うのは初めてで、お願いしますと頭を下げたら刺激が云々と言われて。あまり得意ではないなーと思ったりして。

けれどぶっ倒れた理由はエルグ様じゃなくて。

第1支部の仕事内容、調理補佐であった。

菜食主義で台所にも立たない、立っても精肉処理されたものばかりを見ている私には刺激が強すぎたのだ。

それだけじゃなく。動物に好かれる私としては。そんな形になった動物たちを見るのは、なんとも言えず。

吐き気にも似たものが込み上げたり、目の前がちかちかしたり。頭を鈍器で殴られたような衝撃が走ったり。

ともかく、トラウマ必至であった。

そして脳内ストレスオーバーで倒れた私を…わざわざエルグ様は助けてくださり…丁度今日の私の調理補佐を見る担当だったスタージュン様に声をかけてくださり…。

スタージュン様はと言えばうなされはじめた私を助けようと起こしてくださったり!!話を聞くとそういうことらしい!!


「…すみませんでした…。」

「いや、構わない。」


構わなく無いでしょう、スタージュン様、後ろでエルグ様が全くだって顔してらっしゃいますよ。多分。見えないけど。呆れてるに違いない。


「それより、倒れた理由を聞いてもいいか?」

「…え」

「いや…理由が理由なら第1支部や第5支部は任せられないからな…。」


…そっか、毎回倒れられても迷惑だもんな、適材適所って言葉もあるし。


「それと…これが関係しているかはわからないが、」

「?」

「毎回私の料理を残すのは何故だ…?トミーやグリンよりは見た目に気にして作っているつもりなのだが…。」


…あっ本気でへこんでる、すみませんスタージュン様、不味いとかじゃないんです!


「あっえっ、いや、えっと」


あっくそこんなときに言葉が出ない!!頑張れ伊織!!スタージュン様の料理は美味しいと言え!!


「違っ、あの、私菜食主義で、スタージュン様の料理は美味しいです!!」

「っ本当か、」

「ひっ、はい。」


よかった言えた、言えたけど顔上げたスタージュン様にびびってしまった、いけないいけない駄目だぞ伊織!!


「…そうか……菜食主義か…。成る程、ならば調理場で卒倒したのも頷けるな。苦手なんだろう?」

「全く駄目です。」

「そ、そうか。ふむ…確かに野菜は選ってあった気がするな…。」


そのまま悩み始めたスタージュン様に苦笑いをする。ちら、と視界に入ったのでエルグ様を見ると目が合った。

秒速で逸らした。













1日で支部替え


((…何かしただろうか))

((つい癖で逸らしてしまった))

((じゃあ今度から伊織の分は余り物でというわけにはいかないか…そうだ、トミーとグリンにも伝えねば。))













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2013/12/18

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