少女は捕食者が苦手
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この人と話すことが苦手になったのは、「疑う」ことをされてからだ。
一言一言が私から言葉を出すためのもので、ガラスどころかおぼろ豆腐なメンタルをレアメタル製の疑りで抉ってくる。
それだけじゃない。「言わせよう」としているのだ。圧迫面接みたいな…妥協を待ってるというか。けれど怒鳴るような圧迫の仕方じゃないのも怖い。
極めつけは笑顔だ。グリンパーチ様の、というのがあってか、この人は笑顔で私に言葉を出させようとする。この人の望んだ、言葉を。
「…特別に淹れたのですが。好きと聞きましたよ?ミルクティー。」
「…はい、好きです。」
「どうぞ。今日は任せる仕事もありません。私と話をしましょう。」
大変だ、危機かもしれない。
ごくりと唾を飲み込んでからミルクティーの入ったカップに手を伸ばした。
にこやかで同時に冷ややかな笑顔が私を見ている。視線を捕らわれないようにカップの水面に移した。
思えば、どうしてこうなったのか。冷静に分析してみよう。
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この間まで第3支部でジェリーボーイ様に教えられて一生懸命品種改良してた。そんな中突然騒がしくなってきて切れ気味にジェリーボーイ様が出ていった。
言うならば、これが事の口火を切る出来事と言っていい。
戻ってきたジェリーボーイ様は平然としていて。何があったのか聞いたらトミーロッド様たちが帰ってきたとか。
物語を知る私は顔を青くする(後から聞いたが青かったらしい)。
外から聞こえる怒鳴り声みたいな声や、焦るような声に急かされて第3支部を飛び出す私。追いかけるジェリーボーイ様。
到着して、見たものは。
「やっぱり」
体に穴の空いた、トミーロッド様。
その言葉は無意識だった。喧騒の中に消え入る小さなものだったのだ。その上走ったせいの息切れでほぼ言葉とは言えなかった。それでも、気付かないうちに、隣に立たれていたらしい。そして聞かれていたらしい。小さな音を、拾われたらしい。
「それは?」
隣から伸びた手が私の手首を掴んだ。肩がびくりと跳ねた。捕まれた手首は上へとあげられる。ほぼ反射的に捕まれた方を見た。黒い白目の中の白い虹彩が笑ってた。
背筋がぞわりとした。正直やばいと思った。呼吸が一瞬止まる。
冷や汗がジェリーボーイ様に尋ねられたときの比じゃないくらい出た。涙も出た。半泣きだった。
「伊織?」
ひゅ、と息を吸ったら聞いたことのない音が出た。涙がついに溢れた。無意識に呼んだのかもしれないなんて思いながら、声の聞こえた方に振り向いた。
「ぐっ、りん、ぱーち、様っ!!」
多分鼻水も出てた。掴まれてた手が離れた。私は腰が抜けてたらしくその場にぺたんと座りこんだ。
近付いてきた足音が何故か二つ。ぼろぼろになってしまった顔で振り向くとあーあーなんて言いながらジェリーボーイ様が涙を吹いてくれた。すみません来るの遅いですどこに居たんですか。
そして私の心の支えグリンパーチ様はと言えばトミーロッド様を見てありゃひでェなァなんて笑ってた。あの、心配なさらないんですか。
そんな視線を送っていると私をびびらせたユー様が口を開く。その言葉に私が顔をさらに青くするまであと5秒。
「彼女、明日から第2支部で使いたいのですが。」
にっこりとした笑顔は、なんて恐ろしかったことか。
そうして、今に至る。
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ことり、とカップを置く。脳内整理は終了。ああ、あの言葉さえ言わなければ。
「さて、暫くきちんと仕事をしてくださって、助かりましたよ。」
「…はい」
「早速本題なのですが」
…現実逃避の場で、現実を突き付けられている。これはまさにそれ、ユー様は私の現実と言っていい。
「あの時貴女が口にした…“やっぱり”とは、どのような意味ですか?」
視線を落とす。逃げられるなら逃げたい。ああ、最早後悔しかない!!
完全黙秘は難しい
((何か言わないと、でも、何を?))
(どうしました?)
((グリンパーチ様にも、話してないのに?))
はいはい急展開急展開。
2013/12/16