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駅のホームから眺める線路が、どこまで続くのか気になるのが五月の夜。
夜気は温く、風が気持ちいい。
月は暗いが、空気は軽い。

俺はけれど重い身体で、ホームの端に立っていた。
電車が行ってしまったばかりなので、今日の疲れがどっとのしかかる。
歩は元気かな、と思いかけて、首を振る。

「シンちゃん」

急に誰かに呼びかけられて、驚きながら振り返った。
三宅が笑いながら駆け寄ってきた。

「俺も今日は珍しく残業したんだよ──」

部署の違う三宅とは、定時で上がっても帰りが一緒になることは少ないから、残業した上で出会うのは珍しい。

「そういやさ、シンちゃん。シゲのこと覚えてる?二コ下で、名字なにつったっけ…」

三宅は去年の夏に川口が逮捕されたことを話していたが、俺はあまり聞いていなかった。
彼の指に光る銀色の指輪が、胸を抉ったからだ。

「アイツがオレオレ詐欺なんてさ。でも、ちょっと納得できるのが悲しいよな。アイツ、昔会った時、ヤクザの世話になっててさ。悪いヤツじゃないのに、なんでそっちの方ばっかり行っちまうのかなって──」

三宅は、川口がなぜ自首したのか、なにも知らない様子だった。
家族持ちの三宅には、無心に行かなかったのだなと思うと、不器用なあの男の真面目さが改めて感じられて、俺は久々に心が温かくなった。

「なあ、シンちゃん。体調悪いのか?顔色良くないぞ?」
「照明のせいだよ」
「そうか?あんまり無理するなよ。独身はどこでも気軽にこき使われるだろ」
「まあな。でも、やることがあるだけありがたいよ」

三宅と別れて電車を降りて、暗い部屋に戻ると、やっぱり疲れているのだなと息を吐いた。

この三ヶ月、俺の頭からは、走り去っていく歩の姿が消えなかった。
歩の存在が大きくなっていたことを実感しながら、忘れるために仕事に逃げた。

その結果がこのザマだ。
久々に会った三宅にまで心配させてしまった。

そのくせ、部屋には捨てることも片付けることもできずに、歩がくれた野球帽がそのまま飾られている。
俺に、こんなにショックを受ける資格はないというのに、情けないことこの上ない。
俺は、デートをすることで利子を返していたはずなのに、歩から楽しい時間をもらっていたのだった。

全て忘れて、新しい一歩を踏み出すこと以外に、彼のためにできることはないはずなのに、ぐずぐずと逃げ続けている。
本当に、情けない。
どうかしている。
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