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奥の席に座ると、年配の女性が『いらっしゃいませ』とメニューを渡してくれた。
「お薦めはコーヒーセットのパンケーキです。冬にはお汁粉が登場するんですが、アレも絶品。冬になったら、また来ましょうね」
「ああ。じゃ、俺はそのパンケーキのセットで」
歩の口から“冬になったら”という言葉を聞いて、このデートが何年も続く先の長いものであることを改めて実感した。
できるだけ早く完済したいが、年に八十万円返せ続けたとして十年だ。
「歩」
「…はい?」
帰りで良いかと思っていたが、俺は尻のポケットから封筒を取り出した。
「とりあえず返しとく」
歩は受け取って中を確認した。
「これ…」
「ATMで下ろせるだけ下ろしてきた」
毎月コツコツ返すつもりだが、月に数万では先が長すぎる。
貯金からまずまとまった額を返しておこうと、出掛けにコンビニで限度額まで下ろしてきたのだ。
「ダメですよ、シンイチさん。これはもしもの時の貯金なんでしょう?これからなにかあった時どうするんです?」
「八百万の借金は充分もしもの時だ」
「僕は急かしませんよ。緊急性はないんだから、もしもじゃありません」
歩は封筒を突き返した。
返済に時間がかかれば、その分デート回数も増える。
歩にはその方が良いだろう──俺はそう思ったが、本人の目はもっと真剣に俺を見ていた。
眼鏡のレンズ越しにも、有無を言わせない迫力があった。
「お待たせしました。パンケーキセット、チョコソースです」
注文の品を運んできた女性に、片手で俺を示しながら、歩は封筒を俺の手に捩じ込んだ。
コーヒーやパンケーキの載った盆が目の前に降りて、俺は抵抗を諦めざるえなかった。