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□私なりの運命論
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 あの日、想いを告げ合った日。私達は何度も何度も約束した。また会おうねって。ずっと好きだよって。だから、大丈夫だって。先に帰る私のことを、数日後には遠くへ帰る貴方が、ずっと慰めてくれた。優しくて、カッコよくて、強くて、沖縄に住んでいる人。甲斐裕次郎さん。私の、彼氏。
 一緒に合宿を過ごしたつぐみとは、私達、何の為に来たんだっけ、と真剣に考えたくらいだ。だって、つぐみにも彼氏が出来てしまった。まるで恋愛をしに行ったみたい。そう、二人で笑った。でも。家に着く頃には、笑顔は消えていた。つぐみの彼氏は都内にいる。でも、私の彼氏は――…。

「……はぁ」

 どんなに大丈夫だって言っても、当たり前にやってくる不安。そもそも私の夢だったりしないかな。本当に、あれは、現実だったっけ?

「裕次郎さん……」

 一週間、一緒にいた。だから、寂しいだけだ。涙が零れるのは、悲しいからでも、不安だからでもない。ただ、ちょっと寂しいだけ。だから、許してください。ね、裕次郎さん。




 数日後、彩夏の不安を他所に甲斐からの連絡はやってきた。島から本州へ移ったばかりだったらしく、周りは聞き慣れた声に満ちていた。彩夏はあの一週間が夢でなかったことに安心して、溢れそうになる涙を慌てて拭った。

「お疲れ様です、裕次郎さん」
『にふぇーでーびる』

 たった数日で声が変わる訳もなく、聞き慣れた声が鼓膜に響く。それだけのことが、彩夏には嬉しかった。元気だったか、なんて。会わなかったのはたった数日のことなのに。言われた言葉に、笑みを浮かべて頷いた。

「多分、裕次郎さんより元気ですよ!それだけは自信あります!」
『どんな自信よ』

 呆れたような、楽しそうな声だった。

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