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□恋の始まり
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「わんと付き合って」
かつてから仲の良かった平古場凛。彼にそう言われたのは、昨日のことだ。まさか平古場にそんなことを言われるとは思わなくて、私はフリーズしてしまった。なんて答えようか悩んでいると、平古場は慌てた様子で間違えた、と呟いた。
「付き合っちょるフリして欲しいんやしが!」
「…フリ?」
平古場の紡いだ言葉に首を傾げる。平古場は大きく頷いて、次の言葉を紡いだ。
「最近、わんぬ周りでいなぐがかしまさい」
「モテないわんへぬ嫌味か、だぁや」
とんだモテる発言に思わず口を挟んだ。が、平古場が黙って聞いてろ、とでも言うような目で睨みつけてくるから、私は素直に黙る。私偉い。
「そろそろ部活も大詰めやっし。いなぐに時間潰されるぬや嫌なんばぁよ」
部活と言われて私は、平古場がテニス部だったことを思い出した。そして納得。今年のテニス部は、もしかしたらもしかするらしい。木手を筆頭に、中々の猛者が揃ったとか。
「……ふぅん?」
そう思い至ってから、私は平古場への返事を考える。平古場との仲は悪くない。むしろ女子の中では、私が一番仲は良いだろう。だからこそこういうお願いをされたんだろうけど。
平古場の顔をちらりと見る。断っても問題なさそうな顔をしてる、けど。
「………ゆたさんよ」
何を思ったのか、私は頷いていた。正面にいる平古場は目を丸くしている。私が断ると思ったのだろう。私自身断ろうと思っていたから、その反応は間違っていない。
「…じゅんに?」
そう聞いてきた平古場に頷いて、にっこりと笑う。
「もちろん。貸しイチ、やっし」
平古場はぱちくりと瞬きした後に、呆れたように笑う。
「くぬひゃー…」
かくして。私と平古場は、偽恋人となったのだった。