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□「夏」が来たよ!
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 起きたとき、彩夏は未だ夢の中にいるような気分だった。恐らくあの合宿で過ごした島と似た気候の島にいるからだろう。そう。彩夏はが今いるのは、生まれ育った土地ではなく沖縄。数ヶ月前に父の転勤が決まり、昨日沖縄に引っ越してきたのだ。四月に私立比嘉中学校に転入することが決まってから、彩夏は楽しみで仕方がなかった。彼らは卒業してしまうけど、彼らのいた学校だ。当然同級生にだって、彼らを知る人がいる筈。彼らがいた場所にいられる。それだけで嬉しかった。
 眠い目を擦りながら、彩夏は身体を起こした。彼らに引っ越すことを告げずにこの島まで来たのはいいものの、どうしたものかと悩む。取り敢えず直接会って驚かせたい。その為に、言いたくて仕方なかったのを堪えて黙っていたのだから。とにかく身支度を整えて、朝食を食べる為に部屋を出た。

 午前中に粗方部屋を片付け終わって、一息吐いた。細かい整理整頓は、これから終えていけばいいだろう。既に取り付けてある壁掛け時計を見上げて、時間を確認する。時計の指す時間は十一時。彼らの家も解らなければ土地勘もない。悩んだ彩夏は、メール画面開いて「今どこで何してますか?」と三人に一斉送信することにした。昼食を食べながら待つこと数十分、三人の内の一人から「学校で引退試合しちょる!」と返ってきて、彩夏は口角を上げた。テンションに任せて、小さなお出かけ用バッグを持って部屋を出る。

「いってきます!」

 愛用のスニーカーを履いて、家全体に響くように声を張る。彩夏は足取り軽く家を出た。

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