妄想たち
□そうやってはじめよう
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ベッキョンと俺が揃えば、誰も止められないほどうるさいのが定番で、メンバーやマネージャーからもよく怒られるほど。
でも今日は違った。
俺は数日前からのベッキョンの変化に気付いていた。
数日前の歌披露の時、ボーカルラインの3人がいつものように見せ場で俺たちの歌をより重厚にしてくれる。
そんな中、ベクの伸びやかなパートで、いつもの力強い声ではなく、何か喉の奥が詰まるような・・・マイクでエコーをかけてしまえば殆ど分からないほど、ほんのわずかな違いだけど、ベクの声に違和感を感じた。
ベク本人ももちろん感じているようで、ここ数日、ずっと落ち込んでいた。
でもその落ち込みも、多分みんなは気づいてない。
ベクは非常に自分のことを隠すのがうまくて、みんなの前では常に明るいし、いつものベクだ。
みんなもそれぞれ多忙による体の不調がではじめていたし、余計に気づかないだろう。
むしろそのみんなの下がったテンションをあげるのは俺とベクの二人だ。
だけど、俺は知っている。
誰も見ていないところで見せる不安そうな顔を。
スタジオの暗闇の中、そっと眉を寄せて喉を抑えているその辛そうな立ち姿を。
そんなベクが痛々しくて。
目を離せなかった。
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