「ねえ、レイジは曲をかいてて楽しいと思う?」
「んー? どうしたの、急に」
「いいから応えて。ボク、“楽しい”とか“楽しくない”とか分かんないから」
そうやって、アイアイが少しうつむいた。あはっ、アイアイ超かっわいい!
「そりゃあ楽しいよっ!」
「そっかあ……」
アイアイは頷くと、ヘッドホンを耳につけた。……あっれれー、トークおしまい? アイアイ、冷たーい。
僕は、もっとアイアイと話したくて、ヘッドホンを奪った。
「っ!? ……ちょっと、何するの」
アイアイが手を伸ばして、ヘッドホンを奪い返そうとしてきた。
「ねえねえ、アイアイは今どんな気持ち?」
「何それ、意味分かんない。いいから返してよ」
「だっめー。ちゃんと答えてくれなきゃ、僕ちゃん返さなーいっ☆」
「だから、分かんないって言ってるでしょ! 返して、レイジ……わっ!?」
イスに座ったまんま身を乗り出したアイアイが、バランスを崩した。
「危ないっ!」
あわててアイアイを抱きかかえる。
「ふー、あっぶなーい。……って、うをあっ!?」
バランスを保てなくて、僕はアイアイごと転倒。
「うわ、最悪……」
底冷えするような冷たい声で、アイアイが呟いた。
「ちょーっ! アイアイ! 僕、助けたんだよ! 最悪ってひどいじゃない!」
「ボクがそのまま倒れてた方が1.2%痛みは少なかったはずだけど」
「んもう! アイアイのいけず!」
思わず頬を膨らませたら、「そうじゃないよ」ってアイアイが呆れたように言った。
「レイジのことだよ?」
「へ? 僕?」
意味が分からなくて、アイアイの顔を見つめる。
「ボクがそのまま倒れてたとしても、レイジを巻き添えにした可能性は100%。でも、その場合、レイジが感じる痛みは今より1.2%少なかったってこと」
アイアイが僕のお腹を踏んづけながら立ち上がった。うげっと思わず声を出す。
「ボクは痛みなんて感じないから。レイジこそ、自分の体を大切にしなよ。一応アイドルなんだし」
「一応ってどーゆーこと!? 僕ちゃん悲しーいっ!」
そうやって僕はおちゃらけたけど、内心ドキドキしてたんだよね。
だって、あのアイアイが心配してくれたんだよ! アイアイが! 僕のこと!
「アーイアイっ! 今の気持ちはなーんだっ!」
「ちょっと、またそれ? 分かんないって言ってるでしょ」
「ふふふーん☆ 教えてあ・げ・るっ!」
勢いよく起き上がると、アイアイが「うわっ」と身を引いた。
「今のはね……。ズバリ、心配!」
「シン……パイ? ああ、“何か起きないか気にかけること”ってやつ?」
首をかしげるアイアイに、僕は大きく頷いた。
「……これが、か。データとしては知ってたけど。あ、じゃあレイジ。ひとつ質問」
「よし来いさあ来いドンと来い! おにーさんが、なーんでも答えちゃうよっ☆」
ビシッとキメポーズをすると、アイアイが僕の正面にしゃがみこんだ。
「あのね……」
「んー?」
下を向いていたアイアイが、ぱっと顔を上げた。
うわおっ、なんか近い! ……あれ、なんかこれ近いっていうより……。
「!?」
「……ふう」
あわてる僕のことなんて目もくれず、アイアイが小さく息を吐いた。
「ちょっ、ちょっとアイアイ! あの、今のは……」
「うん。それがボクからの質問」
にこっと可愛らしいアイドルスマイルを浮かべるアイアイ。それに対して、僕ちゃんアイドルらしからぬ顔してるよ多分。
「分からないの?」
何も言わない僕に、アイアイが呆れたように呟いた。
「大人のくせに」
「……はは、嶺ちゃんもーすぐアラサー……」
はあ……と、アイアイが分かりやすく溜め息。
「いい? ボクはね、今みたいにレイジにキスしたくなるの。これは、どういう気持ち?」
「えっ!?」
そ、それって愛の告白ってやつなの!? でも、まさかアイアイに限ってそんな! もう、僕ちゃん1人でパニーック!
「ん、んっとねー。それは……」
「それは?」
「うっ、それは……」
アイアイなきれいな瞳に見つめられると、逃げられない……。
あーっ、もうどうにでもなーれっ!
「恋……じゃないかなーって、思います……」
アイアイは「なんで敬語なの?」と眉をひそめてから、あごに手を当てて何かを考え始め
た。
「……データとしては知ってるけど。“特定の人物に強く惹かれて、会いたい・独り占めしたい・一緒になりたいと思うこと”だから、つまり……特定の人物をレイジに置き換
えれば、確かに当てはまる」
えっ。今、アイアイすんなり認めたっ!?
「ということで、レイジ。ボクはレイジに恋をしてるから」
「えっ、それって僕どういう反応すればいいの?」
「とりあえず喜んどけば?」
あわてる僕に、アイアイは意味ありげにニヤリと笑った。
「じゃあ、今晩から覚悟しといて。身長は問題ないし、ボク体力もあるし」
「いやーっ! ブラック・アイアイ、こーうりーんっ!」
天を仰いだ僕を「うるさいな」とアイアイは一刀両断。アイアイきびしーい。
すると、ふいにアイアイが僕を抱きしめた。その手が優しくて、思わず固まる。
「……ボクは、誰よりもレイジを大切にするよ」
アイアイの甘い声に、ぞくりとする。顔が、ほてる……。
「大好きだから、レイジ」
ちゅっ、と音を立てて唇が重なった。
全てにおいて、アイアイに勝てる気がしません……。