REBORN!

□転がったi
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気づいたのは、いつだっただろうか。

ベル先輩と前任のマーモンが、再びよりを戻した事を。

覚えているのは、ベル先輩の部屋へ資料を届けに行ったとき。

大人になって帰ってきたマーモンを、ベル先輩が抱きしめていた。

ドアの隙間から見た風景。

その時に、ベル先輩の肩越しに前任と目があったのだ。慌てて目を逸らし、扉を閉めた。

だが、しっかりと目に焼き付いた光景は頭の中をぐるぐると蹂躙していく。

大切そうに被っているフードを外して、髪を撫でると、その髪に手を埋めて抱き寄せた。

自分は、あんな風に触れてもらった事が
一度でもあっただろうか。

先輩とミーは、付き合っている。
それが、余計に胸を締め付けていくのだ。

いっそのこと、マーモンが帰ってきた時点でお前は用済だと突き放してくれればいい。

結局、それから前任がミーになにか言ってくる事はなかった。

だが、その後もそんな行為は度々見られた。
そして、それに気づかないフリをし続けた。

他にも、先輩はミーが先輩の部屋に入る事を、拒むようになった。
以前は、入れてくれたのに。

触れられなくなった。
ナイフ胝のある細く長い指はミーには触れず、藍色の髪を撫でている。

ナイフを投げる事でしか、コミュニケーションを取る術が無いようだった。

任務関係の事しか喋ってくれなくなり、それも出来る限り会話しない様に、短く用を伝える。

悲しかった。虚しさや嫉妬に溺れそうで。

なのに、まだ別れを切り出してくれない。

そして今、ミーは先輩と任務地へ向かう車に居た。

以前は、この時間も喋ってくれたり、冬の寒い時期であれば、抱きしめて暖めてくれた。

でも、今はずっと携帯端末を弄っていた。

先輩が何かを打ち終え、端末を閉じる。

しばらくすると、バイブ音が響き先輩は再び端末を操作し始める。

前任とメールでもしているのだろうか。

無性に、腹が立った。

「前任ですか。」

窓の外を見ながら、尋ねた。

ぴくり、と窓に映る先輩が反応して、こちらを見て、一拍おいてから言った。

「関係ないだろ。」

冷たい声音が、耳から脳へ。

脳を振るわせ、浅い呼吸と共に吐き出される。

そうだ。関係ないんだ。

自分が先輩をどう見たって。どう思ったって。

今の先輩にとってミーは、「可愛くない後輩」という、出会ったばかりの時の思いしかないのだ。

もう一度だけ「好き」と言ってほしかった。
上部だけだとしても「愛されて」いたかった。

「先輩。」

「…なんだよ。」

先輩を呼んでも、端末から目を離さないまま。鬱陶しさを隠そうともしないで応答してきた。

それから、メールを打ち間違えたのか小さく舌打ちをして、×印をタップする。

そんな様子を窓越しに眺め続ける。

やがて、痺れを切らしたのだろう先輩が端末を閉じると此方を怪訝そうに見てくる。

「さっさと言えよ。」

もう一度舌打ちをすると、窓枠に肘をかけて頬杖をついた。

やっと此方を見てくれた。

嬉しくなった自分が単純すぎて、嫌になる。

「すいません。なんでもありません。」

口をついて出てきた嘘。

本当は、尋ねたかった言葉。

まだ自分を好きでいてくれるのか。

けれど、思っていたよりも、自分は弱かったみたいだ。

目さえ、鏡越しにしか合わせられない程に。

「ったく…なんだよ…」

明らかに、不機嫌になった先輩は再び端末を弄りはじめる。

自分は、貴方の興味を引く事さえ出来ないのか。

窓ガラスに額をぶつければ、ごつんと鈍い音。

そのまま、しばらく窓の外の景色を眺めていたが遅い来る眠気に負けて、瞼を下ろした。

手で覆った顔の隙間から見える頬を、雫が伝った事に、知らないふりをして。



            嗚呼、どうしても愛されない。

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