時よ、戻れ

□それからの私
1ページ/2ページ


「綾ー!起きたー?」


『起きてるよ…』


「ご飯出来てるから降りておいでー!」


『今、行きます。』


10歳のとき、両親が亡くなってから7年が経った
まだ傷は癒えないし、これからも癒えることはないけど…独りになった私を美智子叔母さんは引き取って育ててくれた

そして、お婆ちゃんに言われたことを固く守っている
それを守ることがお母さんとお父さんに対する償いだと私は思っているから


『頂きます…』


「今日も暑いからね、倒れないように気を付けんのよー。」


『うん、大丈夫…』


もぐもぐと咀嚼して、養分を身体に取り込む

ここ最近暑いから、美智さんも心配してるのだろう


「貴文、今日帰りが早いみたいだからスイカ買ってこようか!」


『うん…』


貴文というのは叔父さんのこと
美智さんの旦那さんだ


『ご馳走さまでした…』


お皿を片付けて洗面台に立つと歯磨きを済ませ、髪を整えた


『じゃあ、行ってきます。』


「行ってらっしゃい!気を付けてね!」


7:30
私が自宅を出る時間


ちょっと早いと思うけどそうでもない
ゆっくり歩けば丁度いいし、早すぎたとしても教室で勉強してればいい

どちらが目的でもない
本当の目的はこの人


「おっす、綾」


『おはよう、功介』


津田功介
私と真琴の幼馴染み
私が現在より喋ってた頃を知る人


「いつも早いな。何かあるわけでもないのに。」
 

『いいの、ギリギリの真琴と千昭くんよりはマシでしょ。』


「確かにな。」


私はこの人が好きだ
ずっと昔から一緒にいるけどその気持ちを伝えたこともないし、気付かれたこともない

まぁ、功介は鈍いから分かんないんだろうけど… 


「昨日の数学、やったか?」


『宿題だし、一応やったけど…』


「分かんないとこあったか?」


『そりゃ、あるよ。皆が皆功介みたいに頭良いわけじゃないからね。』


「嫌みか、このっ!」


デコを弾かれた
筋肉バカのデコピンは本当に痛い


『痛いよ、功介』


「その減らず口が治ったら、やらねぇよ」


『どうだか…』


まだ言うか?と構える功介に胸が高鳴るのは仕方ないのかな


「じゃあ、今日はその分かんないとこ解くか。」


『お願いします…』


学校に着いて教室に入ると、功介の隣の席に座ってノートを出した
 

「で?どこ?」


『此処…1問だけ…』


「綾って馬鹿なのか頭良いのか時々分からなくなるときがあるんだ。」


『それは貶してるの?褒めてるの?』


「だってよー、この問題解けてるのにこっち分からねぇんだろ?」


『うん…』


「使う公式同じだろうが。」


『え、そうなの?』


「同じような問題だろ?ほら。」


プリントの問題を示されてそこをもう一度読んでみるけど分からないものは分からない


『分かんないよ、そんなこと言われても。』


「貸してみろ。これがここの式、こっちがその公式使って…こうしたら、答えが、ほら出た。」


『本当だ…考えるほど難しくないんだね。』


「お前は、思い詰めすぎ。もう少し、軽く考えてみろ。重く考え過ぎると数学は出来ねーぞ。」


『アドバイス、ありがと。さすが、医者のたまご。』


「コラ、からかうな。」


功介の家は病院で、功介は家の病院を継ぐのが夢。


私に夢はない。やりたいって思えることがない。友達の応援で十分だ。
どうせ、私が何か言ったら他人も不幸にしてしまうのだから…


功介と話をしていたら、いつの間にか増えているクラスメイト

時計の針がHR開始の10分前を指すと廊下の向こうからドタドタと走ってくる音が聞こえた


真琴「間に合ったー!セーフ!おはよう!功介、綾!」


『おはよ、真琴。今日も元気だね。』


真琴「まぁねー!何やってんの?数学?」


『昨日の宿題のところ、分からない問題を功介に聞いてたの。』


真琴「忘れてた!」


『また?』


真琴「功介!写させて!」


「ダメだ、自分でやれ。」


真琴「ちぇーっ、じゃあ綾写させて!」


『.......いいよ。』


「お前、真琴に甘過ぎるんだよ。」


『でも、いつも真琴にも助けてもらってるし…何もなしはちょっと…。』


「でも、真琴にやらせないとコイツのためにはならないぞ。」


『じゃ、じゃあ。1ページ分だけ、それなら後は真琴が解けるでしょ?』


「ちょっと!功介!折角の綾の厚意が、、余計なこと言わないでよ!」


「ん?余計?どこがだ!」


譲歩して、1ページのみの提案をしたら怒り出した真琴.......


『.......やっぱり、全部写す?』


「え?!ほんと?!いいの?!ありがとう!!綾!大好き!!」


ガバッと顔を上げて抱きつく真琴

真琴が幸せになれるなら、元気になるなら、それが1番、のはず、


「お前なぁ、、」

自信なさげに提案したら、甘すぎるぞ、とまた呆れた顔をして言われた

私の両親のそれを知ってるから人が喜ぶ選択肢を取ってしまうのも分からなくもないのだろう、だが、素直に受け入れられないってところか


仕方ない
嫌われたくないし、不幸にさせたくない、
仲の良いこの人達には幸せであってほしい、

その思いはずっと胸の中にあり続ける


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ