二次創作


□Darkness.1
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 ――此奴(こやつ)が今、何を考えているのか。

 誰も彼もの思考を理解出来る訳ではない。
 唯一人だけ、少しだが解る奴が居る。

『Yes.My Lord.』

 思っても無い事を簡単にする。
 心にも無い事を軽く言う。
 自らの行動、言動に対しての僕の動向を見て、一々楽しんでやがる。

『仰(おお)せの侭に。』

 ――良く言うな。
 ――此奴は僕の魂さえ手に入れば善いんだ。

 だったら、僕を救わなきゃ良いのに。
 それとも、自らの手に掛けるのが好いのか。

 ――此奴に取られる魂と知って居るなら、僕に生きる意味など無いんじゃないか!
 ――僕は何の為に生きる?

復讐。

 唯、此奴と居ると全ての思惑が意味の無いものに見えてくる……


 ――此奴は僕が来るであろう路の果てに先回りし、路を綺麗にしつつ待ちぶせしているのだ。


 自分を変えたのは自分だ。
 そう思っていた。
 だが、全ての事象を変えられる此奴に、自分をも変えられた気がして嫌悪に陥る。

 ……何も、変えられない
 ……解って居るんだ。
 僕の微力では何も……
『いいえ。』
 お前の助けなど要らん。
『助けた覚えなど微塵(みじん)も御座いません。』
 お前の、その「力」が時々疎(うと)ましく思う。

 ――お前のその「力」が時々、羨ましく思う。

『私の力など微々たる物。あくまで、執事ですので。』
 ……もう、助け無くて善い。
『全て、私の自己判断ですから。』

 ――此奴と喋ると砂を噛む思いをする。

 もどかしい。
 ならば一層、この思考の澱(よど)みに嵌ろうか。
 此奴も、下らないこの世も、要らない思考も、何も無い処。
 目を閉じる。
 五感も遣い物にならない位に麻痺させたい。
 ふと、右目に疼く感覚。

 ――この目が在る限り、自分に逃げ場は無いのだ。

『探しましたよ。』
 最初から居場所くらい知っていたのだろう?
『何の事でしょう?』
 嘯(うそぶ)きやがって。
『……言葉が荒れてます。』
 お前の所為だ。
『時々、駄々を捏ねるのですね。』
 子供扱いするなっ。
『失礼しました。』

 ――目を閉じて居ても、解るのが嫌だ。

 柔らかく微笑み、慈愛に満ちた眼差しで此方を見ている。

 ――その眼で幾人もの死を目の当たりにして来た癖に。

『私は御主人様の下僕でございます故……』
 閉じていた目を開ける。
 その言葉は本当か?
『その所存にございます。』
 裏切らないでくれ。
『御意。』

 ――飄々(ひょうひょう)たる態度で居るから信用出来んのだ。

 善い手駒を近くに置いた心算(つもり)が遠くなり、遠くへやった筈が近付いて来る。
 巧く言う事を聞かせたい。

 ――否、巧く遣い熟(こな)せて無いと言う事か。

 ならば、少しも此奴の事を理解して無いと言う事なのか?

 全てを疑いたくなる。どうしようもなく不安になる。
 誰かの殺気を感じる。何かが近付いて来る。
『要するに、実際にはご覧になられて無いのですね?』

 ――人間の五感さえ否定する。

 第六感も無意味だ。

 ――と言う事は、此奴を「理解した」と言う錯覚に陥っていたのか?
『目に見える物が全てとは限りませんよ。』
 お前が言うと妙に説得力がある。
『そうですか?』
 お前はその象徴みたいな者だ。
『……中にはそう言った者の事を深くお知りになりたいと思われる方もいらっしゃいますが、私は敢えて、知らない方が善いと思って居りますよ?』
 冷笑しつつ僕を見る此奴を見て、本当に何も理解して無い事を悟った。

 ――此奴は今、僕から何を取ろうとしているのか?

 それを知る術は無い。








Darkness2へ続く……
かと思われます

最後まで、
お付き合い戴きまして、
有り難うございました

兎望.
 
 
 
 和×ゴス×キセカエ


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