オリジナル


□murmur_mummer.04
1ページ/13ページ



 喜々。

 祭当日まで、私達に銀色は何度、踊りを見せたか解らない。
 余程嬉しいのだろう。夕餉のあとは、ぴょんと立ち上がり、その場で踊る。
 不意に銀色の袖が靡く。長い腕を伸ばし、指先を翻す。
 囲炉裏の火の動きで銀色の影が更に踊る。
 時折、とん……と身軽に跳ねては「凄いだろう?」と言う様に皆に満面の笑みを見せる。
「上手だなぃ。」
「いやいや、大したもんだぁ〜。」
 と、老夫婦が言っていたのは最初だけで、寝る前になると一様に煩(うるさ)がる様な表情に変わっていく。
 「そりゃあ、ねぇだろ?」と、ねぇちゃんは自分と一緒に付き合ってくれたが、それでも睡魔には勝てない。
 銀色は眠たく無いのだろうか……?
 銀色を宥め賺(すか)して、何とか眠りに付いたのは子の下刻(午前1時)だった。


 当日。

 禰宜さま達は銀色の支度を進めていく。
 真白な小袖と緋袴を着けて貰うと、男性用なのか銀色に合っている。
 眼鏡の禰宜さまが前髪に触れようとした瞬間、銀色はその手を押さえる。
「あぁ、駄目かな?」
 激しく首を縦に振る。
「あ……前髪は、私が調えます。」
「そうかい……」
 小首を傾げつつ、自分に櫛を渡す。
 眼鏡の禰宜さまは背後に回り、長い髪を軽く後ろで束にすると檀紙(だんし)を手に取り、器用に留める。
「お、良いねぇ。」
 もう一人の禰宜さまが化粧(けわい)道具を持ちつつ言う。
「……前髪は、これで良いのか?」
 調えた前髪を指差す。
「あ、触んないでやって下さい……」
「うーん……解った……」
 もう一人の禰宜さまも首を傾げる。
“まぁ、そうだよなぁ……”
 皿に溶かれた紅を点(さ)されると少し恥ずかしそうに俯く。
 全ての準備が調い、あとは静かにその時を待つだけとなった。
 
 
 
 
悩んでるならまず相談
あなたの未来を導く鑑定

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ