オリジナル
□murmur_mummer.01
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夕暮れ。
帰り路を独りで行く。
段々と陰る路。
下駄の小気味良い音。
池の側の細い畦道。
左側を見ると、樹々が欝蒼(うっそう)と茂る小高い丘の様な山。
頂上には神社がある。
古ぼけた神社。
そこに通ずる石段も、今にも崩れそうな筈だ……。
そう思い出し、石段を見ようと顔を上げると、中間の辺りに影が、はっきりとは見えないが、何となく人影のように見えた。
あっ……
すぐさま目を逸し、畦道(あぜみち)を見る。
俯いたまま歩く。
背負い籠の肩紐を掴む手に力が入る。
何も視てねぇ……
眼を閉じ、真直ぐ歩く。
おれは、何も視てねぇ……
5、6歩ほど歩いた処で立ち止まり、眼を開ける。
俯いたままの視界に何者かの脚が入って来た。
「わぁっ!」
吃驚して後ろへ尻餅を突く。
「痛っ……」
尻を擦る。が、すぐさま顔を上げ、相手を見る。
着物の柄からして男だろう。
顔の殆どが銀髪で隠れ、表情を読み取る事はかなり難しい。
唯一見える口許は、何か言いた気に開く。声は無い。
銀髪がゆっくりと手を差し伸べる。
「だっ、大丈夫だっ……」
体勢を立て直し、籠から落ちた野菜を拾う。
両膝を突き、必死になって籠に投げ入れる。
銀髪も一緒に投げ入れる。
「っ!……良いよっ」
銀髪が投げ入れようとしていた芋を取り上げようとする。
ビクともしない。
「何だよ、お前っ……」
銀髪は唯、困ったように見上げる。
「もう良いっ!やるよっ!それに、お前の相手してたら夜になる!」
空を指差す。
太陽が沈む。
銀髪をそのままに、籠を背負い、歩き出した。
Dropeyes