オリジナル


□murmur_mummer.01
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 家の中。

 銀髪は怖々(おずおず)と中に入る。
 その間に炭火を熾(おこ)し、温める。
「おーい!」
 奥の台所から呼ぶ。
 銀髪は柱からそっと、此方を覗いている。
「……そう言やぁ、お前の名前、訊いて無かった。」
 汁を二人分よそう。
「おれはキト。お前は?」
 二人分のお椀が乗った盆を銀髪に渡す。
 銀髪は黙って盆を受け取る。
「あー……書いてくれよ。それなら伝わんだろ?」
 台にお椀をそれぞれ置き、台所に戻る。
 銀髪はゆっくり首を振る。
「書けねぇの?」
 首を振る。
「教えたくねぇの?」
 首を激しく振る。
「名前、無ぇの?」
 ゆっくり頷く。
「どうやって生きて来たんだよ……その方が興味在んぞ。」
 銀髪の口許が綻び、頭を軽く掻く。
「それ程でも……じゃねぇよ!」
 銀髪はニコニコ笑う。
 本当に嬉しそうだ。
「……呼び名がねぇんじゃ、不便だな。」
 取った杓文字を銀髪に向ける。
 銀髪はそれに気付き、杓文字を受け取り、釜から飯をよそう。
「うーん……」
 銀髪をまじまじと眺める。
「ぎんいろの長い髪……」
 よそった茶碗を持ち、首を傾ぐ。
「……ぎんいろぉ?」
 試しに呼んでみる。
 居間の台のお椀の隣りに茶碗を並べる銀髪が、不思議そうに振り返り、また首を傾ぐ。
 唇が疑問に思った様に『ん?』の形になっている。
「銀色っ!どうだぁ……」
 言いながら、漬物の壺を開け、小鉢に白菜をよそう。
「やっぱり変か?」
 小鉢を台に置き、座る。
 銀髪は笑っている。
「銀色?」
 隣りに座る銀髪改め、銀色は身体ごと振り向く。
「丸い台なんだから、くっついて座る事ぁ、ねぇんじゃねぇ?」
 銀色はゆっくり立ち上がり、のそのそと離れた。


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