クジラ少女
□流されて無人島 〜TSUNAMI〜
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空気が冷えたのと、テントを打つ雨音で目が覚めた。どうやら外は土砂降りらしい。あたりはまだ暗い。寝返りを打った。
「…い……」
「……ちゃん……!」
「――ん…?」
雨音に混じって、何か聞こえた。
これは…声?
寝袋を剥いで起き上がる。風のうなる音も凄かったので、枕元の放られたパーカーを、寝間着代わりに着ていた黒Tシャツの上に羽織り、外に出た。とたんに雨が身体を打つ。砂場もぬかるんでいて、七分丈のパンツがあっという間にびしょ濡れになった。
「はるちゃん!」
「!」
ノイズのような雨音の中で誰かの声が聞こえた。見ると、波打ち際に人影が見えた。葉月だ。
「葉月!」
駆け寄りながら声をかけると、葉月は弾かれたように振り返った。その顔は蒼白で、焦りの様子が伺える。
「どうしたの?!」
「怜ちゃんとまこちゃんが溺れちゃって…!はるちゃんが助けに…!」
「ええっ!?」
この嵐の中を泳ぐなんて無茶だ。波も高いし、危険すぎる。
「と、とにかくたっちゃんはここいいて!絶対だからね!?」
「でも葉月は――」
言うや否や葉月はTシャツを脱ぎ捨てて駆けだした。その背中は雨に飲まれ、あっという間に見えなくなる。
「葉月!!」
あたしの声は豪雨に飲まれ、彼に届くことはなかった。
*****
遙に追いついた渚は、彼と手分けをして怜の救助に向かった。突き刺さるような豪雨のせいで視界が悪く、うねる波しぶきがさらに視界を奪う。
「怜ちゃん!」
「な、渚く……!」
どうにか怜のもとへ辿りつき、彼の身体を支えた。
意識はあるようだが、その体はぐったりとしていて、肌も冷たい。彼の状態がよろしくないことは、知識のない渚にも分かった。
「怜ちゃん!しっかり!」
その時、自分の身を包む波がざっと引いた。思わず顔をあげる。するとそこには、自分の頭よりも遥に高い波が迫ってきていた。視界が陰る。
「うそ――」
飲み込まれる!
そう思った刹那、後頭部に誰かの手が乗った。
「潜れ!!」