series story

□狂気の怨魂
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二手に分かれて夜闇を駆け抜ける。

田舎の島は夜になれば一層闇に包まれる。
月明かりが眩く、数多の星々が
大空を埋めるその光景は
島ならではの名物である程に美しい。

いつもは月が彼らを照らし
満天の星空を見せる夜が全てを包み込む。

しかし今日は何も見えぬ夜。


月に1度、月が泣く。
姿を消して泣いている。
突き刺さる流れ星すら
彼を隠して己も身を潜め
濃密な厚い雲を身に付け
ひたすらに涙を流す。

その名も“新月”。


この島は新月になると必ず
酷い大雨が降り注ぐ。
神々の恵みと呼ぶ者も居れば
月が嘆き悲しむ日でもあると
祈る者も居たのだ。



「こんな夜中にどこへ行く」
「…!!」
「少し、話があって来た」
「…まぁまずは、そんな“物騒なモン”しまえよ」


夜闇に紛れ、狂気に染まる群衆に
マルコ達は立ち塞がる。



ゆらり。

雨合羽の隙間から覗く表情は
決して穏やかなものでは無かった。
しかし再び振り返った時には
いつもの優しい笑顔を貼り付けて
マルコ達の前に出る。


「…いやはや、一体あなた方こそ何の御用で?」
「こちとらお前に話があって来た」
「はぁ?」


「お前だよ。ーー…ドーリス。」



ゆらり。

群衆の中心で
黙ってこちらを睨み付け
手にある鉈を握り直す
今までの姿とは打って変わった
グイディーの父、ドーリスの姿だった。












ーーー




深夜の遺跡はまた違った雰囲気が纏う。
草木も眠る深い夜の頃。
サッチとハルタ、ビスタの3人は
大きなスコップを片手に
遺跡の石畳を踏む。


「よし、やるか」
「レイチェルの話ではあの辺か」


3人はそのスコップを
雨で泥濘んだ土に刺していく。







ーーー





ドス黒い闇に紛れ、武装する。
マルコの前に出て来たドーリスと同じ。

こんな夜更けに集団で
各々が武器を手にする異様な光景。

…よく見れば、ドーリスの後ろに居る集団は皆
この島の住人達では無いか。
正体がバレたくないのか
彼等は狼狽えながらもマルコ達を見ようともしない。

しかしそんな事したって意味は無い。
もう、誰が誰だか分かっているのだ。


「そんなもん手にして…今から何処へ行くつもりだった?」
「やだなぁマルコさん…!別に深い意味なんて…」
「深い意味は無い?本当か?」
「あぁ勿論……まさか、何か疑ってるのかい?」
「…………もうやめにしようぜ、ドーリス」
「………」
「……全部、分かってんだよい」


ギラつく目付きで群衆を睨み付ける。

やがて、失意が怒りに変わる
その時までーー……



「…全て………話は聞いたよい」
「…………」
「……お前だったんだな、ドーリス」
「…………」
「…………お前達が、グイディーを」
「………」
「ーー……殺したんだな」



月が、泣き喚く。
打ち付ける涙が、マルコとイゾウの頬に落ち
雫となって地に沈んでく。

嗚呼哀しい、嗚呼恨めしい、

そんな悲鳴が聞こえた気がした。



「……あーあ」


聞いたことも無い声色で
ドーリスはその場に胡座をかく。


「折角、隠しておいてあげたのに」


そして、いつもの様に優しく笑んだ。


「何だいマルコさん、私に闇討ちする気かね?」
「…闇討ちはお前らだろうよい」
「鼻たれ坊主と同居してる老夫婦に、こんな大勢でこんな時間に押し掛けようとしてるのは、どこのどいつらだろうねぇ」


イゾウが冷やかに笑う。

ちび3人組が心配していたのは
この事だったのだ。
島の“真相”を探り入れる白ひげ海賊団達の塒に
頻繁に出入りしてるとなれば
頭の悪い鼻たれ坊主なら
丸め込まれて口を割るに決まっている。


「島の全員で隠し事を共有してたんだろ?」
「…あぁ……そうさね」


裏切り者には死の鉄槌を。

部外者である白ひげ海賊団に
少しでも本当の事を話してしまえば
連帯責任になるのだ。
家族の誰か一人でも口外してしまえば
一家全員惨殺されるのだ。

島の子供達が必死に隠そうとしてたのは
己と己の家族を守るため。


たった3年の間に、
この島は歪な恐怖に支配されてしまっていた。


「お前らも、もう武器を下ろせ」
「そんなモン…本当は手にしたくねぇ筈だよい」

「「「…………ッ、」」」


ガシャガシャと地に落ちる殺人道具達。
その中心で未だ薄ら笑みを浮かべる
ドーリスに、群衆は後退りをし始める。

そして、追い詰められたのか
彼は口元に弧を描いたまま
ゆっくりと話し始めた。



「……全部グイディーが悪いんだ」
「…何……?」
「…あいつが“あんな事”言わなければ…この島は上手く回っていたのに」
「…テメェ…ッ」
「落ち着けマルコ」
「……ッ」


「何処までも愚かな娘だったよ!!」

「私のやり方にケチ付けて、挙句全てをぶち壊そうとしたんだ!!」

「全く馬鹿なガキだった!!“あの女”に似て低脳に育っちまった!!」

「巫女の地位を手にしたからって調子に乗って父親に逆らいやがって!!」

「…ーーだから殺してやったんだよ!!!!あの女と同様にな!!!」



ーーこの手で。




拳が頬をめり込む音。
ドーリスの肥えた身体は
軽々と吹っ飛んで泥に塗れる。

土で汚れた醜い様は
なんとまぁお似合いな姿だ事。


マルコは肩を揺らしながら
ドーリスの胸ぐらを掴む。


「…テメェ!!!グイディーの母親まで殺したってのか!!!」
「…うぐゥ…ッ!!」
「許さねぇ…許さねぇ!!!」


青い炎を纏った拳が、
何度も何度も彼の頬に降りた。
まるで、雨粒の様に。







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