series story

□虚偽の演技
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何かがおかしい。



この島に来て早5日目、
遂にビスタが口を開いた。


「……どいつもこいつもよそよそし過ぎる」


グイディーの死についてや
病気、儀式、ありとあらゆるあの子にまつわることを聞こうとすると
島民は皆、不自然にはぐらかすか
口を紡いで走り去ってしまう。


あの子が死んで悲しいのは痛い程に分かるが、
あそこまで何も教えてくれぬともなれば
疑惑の目は厳しくなるばかり。

まるで、
初めからグイディーは居なかったかのように扱われている様で、ビスタは少なからず心苦しかった。



「同感だな」
「イゾウもそう思うか」
「グイディーより年下のガキ共ですら、大人達に“何か”を口止めされてやがる。」
「……確かに」
「言い方はキツイかもしれねえが、少女が1人病死しただけの事…。それなのに、島民全員が何かを隠蔽してる様な匂いがする」


勘の鋭いイゾウの言葉に
傍で聞いていたマルコ達や
他の隊員達すらも手を止めた。


「そりゃあどういう事だ?」
「詳しく聞かせろ」


食堂に居た周りの者たちが集う。
椅子を引いて話の輪に入る様子は
唯の好奇心だけでは無いようだ。

恐らく、皆この島に来て
何かを感じ取っているのだろう。



「まず、話を整理していこう。」



海賊である身、普通の感覚など
宛にすらならないのは十分承知だ。

しかし思うのは、
どうして島民全員が愛していた少女に
悲しき死が訪れた事に対して
少女を思い出す事も拒絶するのか。


自分達が余所者の海賊だから、
と言われればそれで終わりな気もするが
あの子を愛していたのは
おれ達だってそうなんだ。

お前達だけでは無い。



「ガキ共の口を割らせた方が早いか」
「いや…リッキー達ですらあの様子だ。大人達にバレたらどうなるか分からねぇ」

リッキー、と言うのは
グイディーとよく遊んでいたあの3人組。
焦って走り去るあの時の様子が目に浮かぶ。


「バレて何言われようとおれ達は海賊だぜ、」
「違うよ」
「…?」

イゾウの鈴のような言葉が
その場にいた者達の胸を刺す。


「おれ達に話したってのがバレたら、ガキ共が大人に何かされる可能性だってあるさ。」
「…つまり、口止めという名の脅迫か?」
「……まだ可能性の段階だ。」
「…」
「そうだな…」
「イゾウの言う通り、やはり子供達に聞き出すのは無謀かもしれんな」


その場に残るのは沈黙の吐息。


子供達に聞き出すのなら大人か?
しかし尚更彼らは口を開く事は無いだろう。
父親のドーリスに問い詰めるのも
また無理な作戦なのかもしれない。

だって一番辛いのは、
最愛の妻子を失った
彼自身なのだから……。



そこでサッチが
何かを思いついたように
表情を変えた。



「………そうだ、あいつだ!」


目を見開いてサッチは言う。


「アホ面の鼻タレ坊主!」
「……?」
「…どういう事だ?」
「前言ってたじゃねーか!ほら、レイチェル!…あいつの姉ちゃん!」




“んとねえ〜、グイディーが死んだ時になんかぁ、色々あってねー”





全員の顔色が変わる。
合点が行くのだ。

島民の様子のおかしさと
鼻タレ小僧の姉の家出。
あそこまで仲睦まじかった姉弟が
2人を引き裂いて別居するまでに
至った理由…………



「…小僧の姉貴が島を出てったのは、グイディーの死に関わっていたから…か……!?」
「じゃないと納得いかねーだろ!小さい弟置いて島から出ていくなんておかしいって!」
「…それにあのチビ助も口止めされていたっぽかったし」



深まる疑惑に
止めどなく溢れ出す嫌な予感と
同時に思い出されるグイディーの笑顔。

何があってグイディーは病死したのか、
どうして魂が遺跡に縛り付けられて
成仏出来ずにさ迷っているのか…


グイディーも真相を探しているのだ。
きっと今も……ひとりぼっちで。

彼女が自分達にのみ
姿が見えるのは
島民では無いからなのだろうか?
この島で起こった“何か”を知らないからなのか?

考えた所で、答えなんて出ない。



「グイディーは、おれ達に探して欲しいのかもしれないね。自分の死の真相や…この島で起こっている“何か”について。」


ハルタの言葉は
普段ならスピリチュアルや
そういった類いに
興味や意味すら持たないのに
どうしてかおれ達の胸に酷く突き刺さった。


まるでそれが、
正解であるかのように。







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