series story

□亡霊の悲鳴
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ーー




『…………』



次の日の夕暮れ時。
マルコとサッチで再びグイディーに真実を伝えた。イゾウとハルタは気まずい空気に口を閉ざしながらグイディーの顔色を伺っていた。


「…他の奴らも言ってたよ。だからやっぱり…」
『………』


グイディーは納得がいかないような
完全に表情で俯いてしまった。


「それから…お前が死んだ後から、儀式は行っていないらしい。」
「巫女になった者は短命だったってな。おやっさんが言ってたよい」
「だからこそ、次の巫女を選ぼうなんて気には皆ならなかったんじゃないかな」


神を想うが為の儀式の筈なのに
まるでその神が、
民の命を奪い去っていったのだと、グイディーの死によって乱心気味の島民達は唱えた。

それはやがて悲しみから失望、怒りに変わり、遂には誰もが島の神を想う心を取り捨ててしまった。




それを伝えていいのか分からなかったが
グイディーの死というのは、
それ程までに多大な影響を及ぼした。


「お前は、島の皆から愛されていたんだよい」
『………』


明るく、健気で優しい
グイディーの心は少なくとも島民達だけではなく、自分達海賊達の心までも優しく解していたのだ。


「その事実は、絶対に変わらねえ」


少女の肩を抱いて包み込みたかったが、それも今や出来もしない。
それでもただ、またグイディーと話せただけでもマルコには幸せだった。


『マルコ達が…そういうなら、やっぱり私は…』
「……」
『病気…だったのかな』
「…だと思うよい。本当に…残念な事だ」
『うーん…』


納得をせざるを得ないと感じたのか、
グイディーは何度もゆっくりと頷いた。

生前から、どこか大人びていて
周りの空気を読む事を早くに覚え、
自分がどれ程辛くても
それを訴えたりしなかったから…
グイディーはそれ以上何も言わなくなった。
その性格は、昔も今も変わらない。


今もきっと空気を読んだのか、
マルコはそう感じてまたもため息を吐く。




彼女が死んだのは
彼女自身の生き方故なのか
神により奪われた悲しき存在だったのか

考える度に辛くなるマルコ達の表情は
今も晴れることは無い。









その日、少しだけグイディーと雑談をして遺跡を離れた。
成仏を望んでいるはずなのに
彼女と離れるのはやはり心苦しい。


「あ、海賊の兄ちゃんだー」
「おぉ、お前は」

夕暮れの港町で少年に出会う。
常に鼻水を垂らしたアホ面小僧。
昔も今も変わらずの小僧には
きっとマルコ達が何に悩んでいるかなど
知る由もない。


「何やってんだ鼻タレ小僧」
「ぁえ〜、アルバイトだよ〜」
「バイトぉ?お前がか?」
「偉いじゃねえか!」


イゾウがぐしゃぐしゃと頭を撫でる少年の手には配達物。
いつも汚かった小僧の手は今日は綺麗。
成長を感じて喜ばしい事だが
サッチはふと彼に尋ねてた。


「お前の年齢でバイトって何でだよ?別にお前ん家貧乏じゃねえだろ?」
「んぁ〜、貧乏だよぉ」
「またまたぁ〜、おれは知ってるんだぜ?」
「なにをー」
「お前の綺麗なお姉ちゃんが家計を助けてるんじゃねえか!」


鼻タレ小僧にはなんと、
似ても似つかない美しい姉が居るのだ!
姉と二人暮しのこの子はまだ小さく、
代わりに年の離れた姉が生活費を稼いでる。
姉のレイチェルはこの島の港で働くしっかり者。なのでこいつが生活に不自由してる事はなかったのだ。


「ねぇねは、島にいないよぉ」
「えっ、そうなのか?」
「出稼ぎか?」
「ううん〜、出てった」
「嫁いだのか!?」
「ううん〜、出てったぁ。暫く帰ってこないよー」



イゾウが僅かに違和感を覚える。

小さな弟を置いて島から出ていく姉が
どこに居ようか。あんなに仲が良かったのに。

聞けばこの子は島の老夫婦に引き取られて生活しているらしい。


「レイチェルはなんで出てったんだ?」
「んとねえ〜、グイディーが死んだ時になんかぁ、色々あってねー」
「……!?」
「あー、これ言っちゃいけないんだったぁ。」
「グイディーと関係があるのか?まぁあの二人が仲良かったのは知ってるけど…」
「うーん、言っちゃダメって言われてるからぁ、知りたかったらねぇねに聞いてねー」
「……」





動き始めるのは壊れた歯車。
一つ一つ、小さいネジが
真相へと繋げていく。









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