series story

□かなしいこ
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僅かに突出した二本角。
黄色味の無い赤い肌。
頬を埋める鱗。
ギョロリと蠢く、歪な瞳。


グイディーちゃんは、
バケモノだった。



『うわぁ、うわぁ…!』


グイディーちゃんはその場で
膝をついて顔を突っ伏して
大声で泣き出した。

その声を聞いて、ルフィはプチン。
男達を本気の拳で殴り飛ばす。



「グイディー、ちゃん…」

リリカがグイディーに駆け寄った。
帽子も仮面も土に汚れてる。

泣き崩れるグイディーちゃんの
背中を撫でようとすると

パシン、と振り払われた。


『リリカちゃんは!リリカちゃんはグイディーちゃんとおともだちになりたかったんじゃないんだ!!』
「え、な、なんで!?」
『おじちゃん達に頼まれたからっ、グイディーちゃんのとこにきた!!』
「…違う……!!ちがうちがう!!わたしはグイディーちゃんと友達なりたくて、」
『うそつきだ!!!うそつきうそつき!!!おとうさんもおじさんもリリカちゃんもみんな!!グイディーちゃんにウソつくんだ!!!!!』


割れた仮面は枯葉の上で眠ってる。
牙の生えた口が、大きく開いて
リリカに向けて怒りの言葉をぶつける。

大粒の涙が、鱗の頬を汚して
ツヤツヤとテカっている。


『みないでよ!みないで……』


身体を隠すようにうずくまる


「……グイディー…!?」
「なんだ、…あれ、」


ウー、ウー、と唸る。
グイディーちゃんの身体が
変形していく。

背中のリュックが破れて
その下から現れたのは
歪な形の大きな羽。


『うわぁ、うわぁ!』


大きな金切り声が
耳を埋める。
頭の二本角が
ニョキニョキと伸び始める。


「グイディー!!おまえ、1回落ち着け!!」
『うわぁん!!』
「身体が、!」



口が大きく、
瞳がギョロギョロ、
頬だけでなく
全身を覆い尽くす鱗。

グイディーちゃんは、
バケモノだった。


『え〜〜〜〜〜ん!!』


伸びた爪がグイディーちゃん自身の
体を傷つけて、
グイディーちゃんはとうとう
その大きな羽を羽ばたかせて
その場から逃げていった。




残されたのは静寂と、
リリカの泣き声と、
辺りに舞うぐにゃぐにゃの羽。


「追いかけよう!!ナミ!」
「ルフィ!」
「お前、リリカを頼むぞ!」
「分かったわ!!」


ルフィ達男衆で、
グイディーちゃんの行方を捜索。
ナミとロビンは
泣きわめくリリカを宥める事にした。













「わたしねっ、グイディーちゃんを探してた時にね、」

サニー号でリリカを落ち着かせる。
しゃくり上げながらも
何があったのかを話し始めた。


「あのおじさん達にっ、話しかけられてっ、」


雑貨屋の帰り。
リリカはグイディーちゃんを探してた。
ジーナ達が酷い言葉をあびせて
いてもたってもいられなかった。

リリカは前からずっと
グイディーちゃんの事を気にかけていた。

グイディーちゃんのおうちは
とても大きい。
大きな屋敷の庭の中で
グイディーちゃんは一人で遊んでた。

柵の外からずっと見ていた。
いつも、帽子と仮面をつけて
雪なんて降ってないのに
手袋つけて
お日様が出てるのに
長靴もはいている。

大人の人達は
何も言わずにグイディーちゃんを
ただずっと見ていただけ。

グイディーちゃんが
外を出歩くようになったのは
本当に数日前が初めての事。

それはルフィ達の
船に乗り込んだ日と
ちょうど重なる。

だから、ずっと、

お友達になりたくて
どんな子か知りたくて、
歳は?声は?好きな食べ物は?
好きな子はいるの?
嫌いなものはなに?

色々聞きたかった。

だから、探した。



「君、グイディーちゃんを知ってるのかな?」

すると
おじさん達が声を掛けてきた。
スーツを着込んだ
少し怖そうな人達。

「うん、あのね」

グイディーちゃんと友達に
なりたくて…

「そうかい、私達はグイディーちゃんのお父さんの元で働いていてね、グイディーちゃんが何日も家に帰ってないから心配で探してるんだ」
「そうなの!?わたしさっき、雑貨屋でグイディーちゃん見たよ!今どこに…」

おじさん達も
グイディーちゃんを探してた。


「あそこの、海賊の船」
「そこにグイディーちゃんが居るみたいなんだよね」
「リリカちゃん、君ならグイディーちゃんをあの船から連れ出す事が出来るかもしれない」
「グイディーちゃんと友達になりたい、と言えばなれると思うよ」
「お願いできるかな?」


え!
そんな簡単な事でいいの!?
じゃあいく!
グイディーちゃんと友達になりたい!


「だからっ、お姉さん達の船に行ったの」
「…そう、だったの」
「………利用されたのね。」
「…え?」
「私達が海賊だから、後々面倒だと思ったんじゃないかしら。だから子供の貴方に頼んでグイディーを連れ出させた。」


海賊と関わると良い事がない。
それは世の常識。
相手がリリカという子供ならば
グイディーの方から
進んで船から降りてきてくれるだろう。

そう思ったんでしょう、と
ロビンは言った。


「どうしよう、どうしよう…!!わたしが、グイディーちゃんを傷つけた!!」
「そんなことない、」
「グイディーちゃん、わたしがおじさん達に頼まれたから来たんだって、そう思っちゃったんだ…!どうしよう!」

また泣き出すリリカを
ナミ達は慰めた。



泣き止むのに時間がかかった。
ルフィ達からの連絡はまだない。
船の中でココアを出して落ち着かせる。
すると、リリカは
こんな事を言い出した。


「グイディーちゃん、あのおじさん達を怖がってた」
「…怖がってた?」
「だって、凄く震えてた。わたしの腕をね、ずっと掴んでたの。」
「………」
「それで、すごい速さで走って逃げたの」


8歳でも侮れない。
リリカは色んなことを見ていたのだ。

でもそれはグイディーちゃんも同じ。
今まで、色んなものを
見てきたのだろう。

何故家から逃げ出したのか。
何故島から出ていこうとしたのか。
何故母親がいないのか。

何故、父親は
自分でグイディーちゃんを
探しに来ないのか。


何故、
グイディーちゃんは
普通の人間と違うのか?


「ねぇリリカ」
「なぁに?」
「リリカは、グイディーが…うーんと、普通の人達と違う見た目をしていても、これからもずっと友達でいたいと思ってる?」


きっと、隠してきた。
親達から言われて
隠していたのか
嫌な事を言われ続けてきたのか
その辛さや悲しみは
グイディーちゃんにしか分からない。

仮面を取らないのも
ご飯を食べないのも
人前でその姿を見せることが
とても怖かったのだろう。


「うん、もちろんだよ!!わたし、グイディーちゃんが普通じゃなくても、それでも仲良くなりたい!!」
「…よし、分かったわ!じゃあ私達も全力で協力する!」
「ほ、本当!?」
「ええ勿論!まずはルフィからの連絡を待ちましょう」
「きっと連れて帰ってきてくれるわよ」
「そうしたら、きちんとグイディーと話をしてみよう。“あなたとずっと前から友達になりたかったんだよ”って」

「うん!」


リリカにやっと笑顔が戻る。
あと足りないのは一つ、
グイディーちゃんの笑顔だ。







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