series story

□祭壇の画
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船の見えない所。
山の頂上付近の壮大な花畑の中で、グイディーは黙っておれの話を聞いていた。
ここは彼女のお気に入りの場所で、一日のほとんどの時間をこの花畑の中で過ごしているらしい。花の甘い香りが鼻に届く。

彼女におれ達の計画を全て話した。
それ故にグイディーに毎日接触しているという事も、ママがどういう人物かという事も、それに対しておれ達家族がどう思っているかと言う事も。
グイディーは表情一つ変えず聞いていた。


『そっか』
「騙す様な真似をしたつもりは無い。お前がこの計画を拒絶してもどうする事も出来ん。」
『そうだね』
「……」


嗚呼、グイディーの顔を見られない。
何故だろうか。
今どんな表情をしているのか気になるのに、おれは見上げることが出来ない。………少なからず、グイディーに悪いと思ってしまっているのか?…このおれが。

「…不思議なものだ」
『え?』
「いや、何でもねェよ」

蝶や小鳥がグイディーの指先に止まる。米粒並に小さな生き物達を彼女は愛おしそうに愛でた。やがて離れていく小鳥や蝶達を見つめて、グイディーはその場に寝転がった。

『いいよ』
「…」
『カタクリさん達の役に立てるなら、私協力するよ!』
「…死を、望んでいるのか」

未来の中の彼女の笑顔が、とても儚く思えた。手を伸ばしても消えてしまいそうな程に…

『例え、貴方のお母さんに酷いことをされても、用が済んだら殺されるとしても』
「……」
『カタクリさんになら、何をされてもいいよ』

思惑通りに計画に協力すると言ったのにもかかわらず、何故か達成感は生まれない。それどころか心の中が曇っていく。
だってそうだろう。
“死”を拒絶しなかったのだ。
どこまで馬鹿なんだ、と罵倒してしまえばいいものをそれが今の自分には出来ない。おれの望む全てを受け入れて、それでも尚笑いかける様子が痛ましく思えた。

「…」

グイディーはおれにとって眩し過ぎる。健気で、哀れで、それでいて清らかな心を持ち合わせている、おれには無い美しさが内面から放たれている。

だから…どうにも、眩しかった。


「…“何をされてもいい”など、男に向かって簡単に言うんじゃねェ」
『えぇ?』
「本当にいいんだな?…下手すりゃ人体実験もされかね無いんだぞ」
『うん、別にいいよ。』
「……」
『それがカタクリさんの、役に立てるっていうなら何でもいいよ。』
「……何故そこまで」

グイディーと同じ様におれも横になった。
花々や草木が肌に触れて擽ったい。


『………繋ぎ止めておきたいのかも』
「?」
『久しぶりに誰かとこんなに話せて、心から嬉しかった。』
「…」
『ずっと、この幸せが続けばいいのになって思った。…貴方との関係をずっと、手放したくないのかな』

彼女の横顔に思わず見とれてしまった。どれ程背がでかくて規格外だとしても、どんな人間よりも美しいと感じてしまう。
別の感情が湧き出てしまう。抑えなければならない、こんな気持ち決して持ってはいけないのに。

…何故、持ってはいけない?
グイディーが巨人だから?見た目が年下過ぎるから?利用しようとしている人物だから?
分からない。海賊ならば欲しいものは何でも妥協せずに手に入れてきた。地位も名誉も力も、ナワバリや、宝や、欲しい人材、女でさえも。

おれはずっと、そうしてきたじゃねぇか。


『だから、カタクリさんとまた、話せるのなら』

ーー“何だって協力するよ”


またも、未来の彼女は優しく微笑んだ。
純粋で、それでいて美しく
どうしようもない程にグイディーは可哀想だった。

「……お前は、少しだけ昔のおれに似ている」
『え?』


…フクロウナギめ!


「好きでこの見た目で生まれた訳じゃ無ェのに、誰しもがおれをみて逃げていった」
『…それは、身長が5mあったから?』
「…………いや、」

歳の近い街の子供達が遊んでいる中に入っていこうとすると、全員が顔色を変え悲鳴を上げて走り去って行った。あまりに腹が立って喧嘩をしても強さをも理由に“バケモノ”だと罵られておれは悟った。
あぁ、おれには友達なんて出来ねぇんだ。

『もしかして、その口の事?』
「お前、…いつそれを」
『あはは、私の身長いくつだと思ってるの?上からマフラーの中見えるのよ!』
「……!」
『いいと思うんだけどなぁ、』


口を隠せば友達は出来るよと兄は言ったが、それに素直に従う程おれは弱くも無かったし、本当の自分を隠してまで友達が欲しいなどと思わなかった。
いいんだこれで、これがおれなんだ。
笑うやつは全員ぶっ飛ばしてやればいい。笑うものなど皆、…消えてしまえばいい。


『貴方も人に恐れられて、嫌われて生きてきたのね』
「…昔の話だがな」
『じゃあ、バケモノ同士って事だ!』
「…フフ、」
『あ、笑った。』
「あぁつい、可笑しくてな」

なんて穏やかなんだ、と
釣られて笑ってしまった。







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