series story

□逝くもなげく
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私は死んだ。


全て思い出した。
繋がった。
この数日間の違和感に。


『……』


私は、死んだのだ。
あの日、あのデートの日
私は少し早めに島に降りた。

ちょっとだけ…本当に少しだけお洒落して
軽い足取りで待ち合わせ場所に向かった。
楽しみで仕方が無くて早起きしてしまった。




でも、私が待ち合わせ場所に着くことは無く
最後に見たのは、怖い男の人達の笑顔。
最後に感じたのは、
信じられ無いほどの激しく執拗な痛み。
そこで私の記憶は途切れた。



デートなんて、してなかったんだ。





ぐるぐる回転。
上も下も縦も横も後ろも前も
ぐちゃぐちゃ、ぐにゃぐにゃ、
ぐるぐる、くるくる、ぐらぐら、
回る回る、廻る、まわる、輪る、マワル。

イゾウ隊長、イゾウ隊長、イゾウ隊長…


『あ…あぁ……ッ』


視界が滅茶苦茶な世界を生み出す。
上下の感覚が分からなくなってゆく。

ふと真横を見れば、私を鎖で繋ぐ高級な棚。
今まで見えなかったモノが見えてくる。


『…わ、……ぁ…な、何…これ』


私の身体は血だらけ。
青痣、切り傷、服も破れてる…
下を見るとボタボタと身体の至る所から血が運河の様に床を汚してゆく。


傷だらけの足の近くに、血塗れの鎖。
棚には鎖が繋いであるだけではなく
グルグル、ぐるぐると何重にも
“見えない”鎖が巻きついている。
その終わりは見えない。

鎖の先端に枷や錠などどこにもなくて
私の身体に、雁字搦めに巻きついていた。
透明の鎖、“腐りかけた”鎖。
目には見えない、私だけを繋ぐモノ。


「……」
『…イゾウ、隊長…』


部屋に入ってきたイゾウ隊長。
棚の前で足を止めた。
私はその姿を、泣きながら見守る。


「…すまなかった、グイディー」


彼が棚の中から取り出した大きめの箱。
その横に写真立てと、線香。

イゾウ隊長は、それにそっと触れる。
写真立てで笑う私の姿。
近くに置いてある私の愛用してた商売道具。


「お前が、好きだ。今も」
『イゾウ隊長、……わたしは、』
「……お前は今、何をしてるんだ?」
『…私は、ずっと……イゾウ隊長の、傍に居るんだよ……ッ、』




私は死後、イゾウ隊長の元へ。
自分の死にすら気づかず、
イゾウ隊長への未練を断ち切れず、
私自身がイゾウ隊長に取り憑いた。

独り言のように私に囁き、
イゾウ隊長らしかぬ甘い言葉を呟き、
私の名を呼びながら、私ではない女を抱く。
ロネスはそれでも、イゾウ隊長に身を委ねた。


“可哀想なグイディー…”

ロネスの言葉が胸を刺す。



「すまなかった。あの日……ずっと待っても来なかったお前を…、探し出してやればよかった。」
『そんな、事…言わないで…』
「あんまりお前さんが来ねぇんで、俺は1人で買い物して、船に戻ったんだ。」
『…私こそ、…ごめんね……』



気持ちは、一方的にしか伝わらない。
彼がらしくもない言葉を、
独り言で囁いて、
私はそれを、嘆きながら聴いて…


私の言葉は、彼には届かない。
嗚呼、なんて悲しいのか。
なんて苦しいのか。

嘆きの言葉すらも、誰にも届かない。







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