series story

□緑を覚醒
1ページ/1ページ













「何とかならねぇのか!?」


エースの怒号が響く。

男を殺し、急いでグイディーと共にモビーへ帰還した後すぐに医療室へ運んだ。

早急に檻を破壊し、その身体を手術台に乗せて措置を施そうも、船医やナース達は手の施しようがないと言うのだ。



「じゃあ何だよ!?グイディーは助からねぇのかよ!?」
「落ち着けエース!」
「落ち着けるかよ!!俺の恩人なんだぞ!?」
「助からんとは言ってない!ただ、…手の施しようが無ぇってんだよ!」
「はぁ!?」


ビブルカードはまだ僅かに残っている。燃える速さは遅いのだが、確実に進行しているのだ。



「エース隊長!…この子、何者なんだい!?」
「な、何者…!?」



グイディーの肌から育ち続けていた芽は、いつの間にか無くなっていた。
しかし、その芽吹いた跡はしっかりと残っており肌のひび割れがそのままの状態だ。

おまけに身体中に刃物の様な物で刺された跡が幾多もあるのだが、血が一滴も出ていない。





…何者……?
グイディーは、何者なんだ…?


たった1週間共に過ごしただけだったが、グイディーの事など、俺は何も掴めていなかったのだ。

森を守護する主だと言うことしか…





「退きなお前達」
「親父!?」
「お、親父…!」



殺伐とする病室の中に颯爽と現れた親父。突然現れた船長の姿に皆は驚きを隠せない。

親父はグイディーの前で足を止めると、儚げに見下ろした。



「やっぱりお前ェだったのか…“小娘”よ」
「………え、」
「…お前達は急いでありったけの水を用意しろ。出来れば濾過したての綺麗な水だ。」
「え!?は、はい!!」
「親父…一体!?」
「エース。お前は浴槽を一つ持ってこい」
「わ…分かった!!」



手も足も出せずじまいだった皆をビシッとまとめ上げ指示を出す親父の姿は、酷くかっこよくて恐ろしい程に安心出来た。

エース達は急いで病室から出て行き、言われたものを用意する。





ーー




「こ、これでいいってのか!?」
「あぁ。」




病室から濾過装置までが遠く、エース達は一番用意しやすいであろう甲板にそれらを用意した。
床から引っこ抜いてきた浴槽を乱暴に甲板に置き、船医達はその中に綺麗な水をぶち込んだ。


浴槽に、先程よりもさらに人間味を失くしたグイディーをそっと入れた。
その騒ぎに隊員達はさらに集い始めおかしな光景を見守る。



「…親父、……一体…」
「グラララ…まぁ黙って見てな」
「親父、これは何なんだよい?」
「……」



エースは不安そうにグイディーとビブルカードを交互に見ていた。

普通の治療を施さず、真水に全身浸けているだけで本当に容体が良くなると言うのだろうか?
誰もがそう思うのだが、その中心で親父が狼狽えずに指示を続ける姿に、息子一同も見守り続けること早30分。





パキ、パキ…
乾いた音が大きく轟く。


「!?」
「!!!」


その音の正体はすぐに見つけられた。
浴槽の底が先程まで無かった筈のコケでビッシリと埋め尽くされていた。


「これは…!?」
「時間はかかりそうだな…」
「親父、何で…」
「……」



エースの疑問に親父は何も答えなかった。












親父の言った通り、
何時間経ってもグイディーは目を覚まさない。
夜になっても、朝になってもグイディーは目を覚まさなかった。
だが時間が経つにつれて、グイディーの周りの植物が少しずつ増えているのだ。もしかしたら目が醒めるのかもしれない。
そんな期待を胸に、時折水を入れ替えたり声をかけたりする。

交代でナース達が様子を診てくれている。
隊長達も見に来ては出来ることが無いかと各自手を尽くそうとしている。

その傍ら、エースはずっとグイディーの側に居た。






ーー




それから三日が経った。



「!」
「…これは!…」
「船医を呼んできてちょうだい!!」



早朝、慌ただしいナース達の声でエースは目覚めた。
すぐに甲板に出てみれば、浴槽の周りを埋め尽くすように船医や隊員達が集まっていた。



「おい!グイディーは!?」
「エース隊長!見てくれこれを!」
「!」



浴槽はその日のうちに完全に植物に包まれていた。それどころか、周りの甲板の床にもそれが侵食している。

そしてその浴槽の中に、あんなにボロボロで変わり果てていた姿だったグイディーが、前の様な潤いを取り戻していたのだ。



「グイディー!グイディー、おい!」
「刺し傷やヒビ割れが全部消えてる!!見てくれ…肌も」
「エース!ビブルカードはどうなってる!?」



仲間に言われて急いで取り出したビブルカードをみて、エースは目を見開いた。


「か、カードが!」



小さくて消えかけていたビブルカードが、作った頃の大きさを取り戻していた。
しかも、どこも燃えていない。

グイディーに傷は一つもなく、乱暴に切り落とされたであろう髪も、前見た様な長さに戻っている。



「グイディー…!」
「浴槽から出す、いくぞ!」
「分かった、せーの!」



ゆっくりとグイディーの身体を浴槽から出し、その場に敷いた毛布の上に寝かせた。
ナース達が急いで冷たく濡れた身体を温め、持ってきた医療器具で措置を施していく。



「脈拍確認」
「体温は?」
「上昇中です」
「心拍数は」
「徐々に安定してきています」



ナース達の活躍が、周りの耳には届いていた。それは誰もが聞きたかったであろうプラスの内容。



「…良かった…」
「ん、エース?」
「…本当……良かった」
「…おいおい、あのお嬢ちゃんが目を覚ましたら…その涙止めろよ?」
「…わ、分かってら」


サッチがエースの頭に手を置いた。帽子を深く被り直し、顔を隠す様に涙をこぼした。
サッチは穏やかに見つめていた。












[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ